もりたけしに訊け!〜説教番長の屋根裏懺悔室〜

残念ながらそういうケースが少なくないと思うよ。
初監督だ、と気負ってしまって、気負ったままチャンスだからと周りの人から好き勝手言われて、自滅しちゃう人、潰されちゃう人はどうしてもいるから。それはもったいないなと。
俺はたまたま生き残れたし。20年ぐらい監督をやっていれば、周りから見ればもうベテランだろうけど、俺はまだまだベテランで落ち着く気はないし。

絵コンテも数多くやっていらっしゃる。

いや、それはトレーニングというか。
俺の師匠の芝山さんは異常なくらいにスピードが早い。また君の知っている人で言えば、平田さんの仕事を見ていればわかるとおり、仕事が早いでしょう? スピードというのは、維持する事こそが大変なんです。
ルーズになろうと思えばいくらでもルーズになれるから。ただ、その怠け癖をつけてしまうと仕事のペースがどんどん落ちてしまうんですよ。
俺は今、月に3本ちょっとのペースで絵コンテを作業するようにしています。段々スピードを上げているので、多分来月、再来月とコンスタントにやっていれば、月4本いけるペースになると思うんですよ。

筋トレみたいな感じですよね。やっていないと鈍ったりしてしまう。

それと同時に1つのタイトル、例えば『スカルマン』をね、1つのことを1つの脳でしか考えていないと、やっぱり使わない部分があったりする。
『スカルマン』はギャグものではないから、ギャグの演出とかカット割は一切ないわけでしょ? 
まったく違うジャンルのものを毎週やることによって自分の脳トレにする。DSなんかより全然いいですよ。

ゲームに頼るよりもね。

だってお金くれるんだもん!(笑)

ははは。

だからシリアスものをやったりキッズ向けをやったり、違うジャンルをやる事で違う脳の部分を使ってカット割をする。結果、自分の反射神経とか引き出しの使い方が鍛えられると思っています。

引き出しの使い方が違いますか?

やっぱり瞬発力だから。まさにこれは芝山さんとこのあいだ一緒に飲んだ時に、芝山さんが俺の言葉を使ってくれたんですけど、「コンテって何でそんなに早く書きたがるのかって言ったら、やはりリアルタイムで書きたい」って言うんです。
20分の尺だったら20分で書きたいと。そうじゃないとテンポってわからないから。

究極はそうですよね。

ありえないことだけどね(苦笑)。
リアルタイムに書きたい、という気持ちがあるので、俺はコンテを描いている時はすごく気持ちが焦っている。
自分がある程度の経験を積んで、何となく全体が見えるようになった頃ってね、絵コンテのどこで詰まるかっていうとシーン替わりで詰まるんですよ。
シーンの頭と終わりで何をするか、何の画を持ってくるかでいつも悩んでいたんだけれど、そんなレベルの話じゃないからね、今は。
どう即断即決するか、新たな引き出しも当然欲しいしね。そうやっていつも探しているし模索しているけど、まずスムーズに流れるようにリアルタイムでどうもっていくか、落としたくないスピードを上げられるならさらに上げたいから。

続けるというところですね。

少なくとも打ち合わせに行っているだけでも1日潰れちゃうからね。まあ、目標としては1週間に1本切れるようになれば……。
例えば10日というスケジュールがあるとして、実際は10日丸々使えることなんてないからね。体調が悪くなったり、急な用事が出来たり。そんな場合を最初から想定して自分でアドバンテージをとっておくべきだし、10日だったら実質7日で終わらせるスケジューリングをして…。
もしそれが6日になった場合どこでリカバリーするのか。
今日目標とした50カットができなかったから明日100カットやればいい、という“夏休みの宿題”的な判断はありえない。

はい。

それは甘えでしかないわけですから。明日50カット出来なそうだったら、今日100カットやればいい。
そういった“逆”ができる人がなかなかいないけどね。

そうですよね。

俺はいまそれをやろうとしていて、実際努力しているつもりです。

即断即決って訓練でなんとか。

そうですよ。瞬発力とか反射神経は訓練しないと。

そうですよね。

でも、だからと言って早けりゃいいってもんではないと。
他方、時間をかけたからと言って、例えば3か月かけて描いたコンテがね、3か月かかっただけのものであるかどうかは別問題なんですよ。
ただ時間かければいいものでもないしね。それだったら有効に時間を使うために前倒しで早く終わらせる、という選択もある。
例えばテレビではなくて劇場版の場合、1日にやらなくてはいけないカット数を減らすんですよ。それでみっちり描いて画面の密度を上げる。
つまり求められているクオリティによってノルマを変える、という事です。
今なんかは予算の都合で何カットしか使えないって制限がありますけど。
本当だったら、350カット使ってテンポを出すといいなと思っても、270しか使えませんと言うのなら270で納めないといけないし。3,500枚だったら3,500枚のコンテにしないといけないし。

はい。

俺は常にコンテ打ち合わせの時に枚数を聞くんだけれど、それは枚数に合わせたコンテ内容にしようとするからです。
俺がどんなに力の入ったコンテを描いたところで再現してもらえなかったら、それは現実的な仕事ではなかったという事になりますから。

意味がないですからね。 

結論的に纏めるなら秘訣というよりは、考え方がそうなるのかな。それは誰しもに当てはまることではないので。やはり自分なりの方法論を見付けないと。

特に演出だと即断即決が肝になるので。

結果を出さないといけないから。その分の経験だからね。
経験値を増やすには数をこなすのが一番。
それこそ失敗も山ほどしたし、今でもしてるけど(苦笑)。

経験なんですよねえ。仕事をするうえでテンションを維持する秘訣はありますか?

気合!

気合ですか。気合一本で。

あのね、大体最初にボケるから(笑)。
ただテンションの維持は大切なことです。人間は何十時間も集中するのは無理なので。さっきのスピードの話に戻るけど、今の俺が自分で何時間集中できるとか、コンテ何ページ分集中できるとか、大体自分でわかってるつもりです。  データを取ってあるから(笑)。今の俺だと没頭できるっていうのは約2時間。
『スカルマン』で周りに驚かれたけど、ボンズに入って仕事しているときに約1時間、チェックしてる間は話しかけられても答えないしね。

すごいですね。

聞こえるんだけどごめん、ってやってしまう。チェック終わってから話をしようって1時間で終わらせるんです。

その1時間のスピードが早いんですよね!?

いや、違う違う。その分集中するから判断力が上がるでしょ。話しながらだと、どこを見ていたっけってなってしまうし。

脇にそれちゃいますよね。

コンテの時は2時間。30カットぐらい、平均するとね。ガッと集中してやれるんだけど、2時間過ぎた途端に絶対に嫌になるんだよ。

ははは。

描いていて面倒だなって思い始めるところまでを数えると、大体25〜30カットぐらいなんだよね。で、某ソーシャルコミュニティサイトに行くと(笑)。

2時間は長いですね。人間の集中力は、大体40分〜50分ぐらいと言われています。

それは訓練ですよ。ていうか、遊びたくてしょうがないから逆に頑張るんだと思います。
20代の頃、まだ監督やって4、5本目の頃だったかな?飲みに行きたい、遊びに行きたい、でも監督やんないといけないし、って時。
監督がスタジオにいないと言われたくないから、ガーっと仕事をして印象を残してフェードアウトしてゆくという事をやってましたね(笑)。

存在感って大切ですよね、監督は特に。

あとは亜細亜堂で演出やっていた頃だけど、亜細亜堂は時間制なんですよ。朝10時から夕方6時までいなくてはいけない。でも朝10時に入っても、机に20カットくらいしか積まれてなかったら、1時間で終わっちゃうんだよ。そうすると11時からすることがなくて。資料あさりや映画に行けるならいいけど、ずっと机にいなくちゃいけないんだ。

あ、そうなんですか。

元々アニメーターの会社だからね。演出のペースはまた違うでしょ?
俺は聞かん坊だったので、すぐ出向扱いになってしまった(笑)。
で、『らんま1/2』をやったりね。

外に発射されてしまったんですか。

外の仕事をやっていれば直行直帰だから自由に時間を使えるようになって。それで自分のペースを作り始めた訳です。
ガイナックスにほぼ住み込み状態で仕事していた時期もあるし、ゴンゾの面倒見ていた時期もあるけど、如何せんシナリオや原作、ノベライズを書くといった仕事になるとホントに集中しないと出来ないんですよ。
でもその時間をなかなか取れない。
そんな中、集中力を上げる訓練が出来たのはノベライズの時ですね。

ほうほう。

『ヴァンドレッド』のノベライズをやった時で、2ヵ月期間で約300ページの原稿をあげないといけなかったんだけど、やる時間がないから終わらない。
だって監督しながらやってるから(苦笑)。
400字詰めの原稿用紙で500枚くらいを2ヵ月で書かないといけない状況下で本編の監督やコンテがあって、アフレコや編集もあるわけでしょ。

はいはい。

毎日、5ページ分くらい書かないといけないわけですよ。しかも俺、ようやく一太郎を使えるようになった頃だから。
なんでこんなに進まないんだろうと悩んだ時に、あ!速く打てればいいんだと思って打てるようにしたんですよ。
そうしたら逆に集中するようになって、2時間で5枚書けるようになったから。 

う〜む、すごいな〜。

ただ40歳過ぎてから堪え性がなくなってきて、最近、自己暗示をかけるようになってきた。それで『スカルマン』から新制度を導入して(笑)。
カカオの濃度が高いチョコがあるでしょ?あれを箱で買ってきておいて、仕事を始める時間になったらコーヒーと一緒にそのチョコを食べるんです。

はいはい。

そうすると、“俺は今カカオを摂取したから集中力が増している”って自己暗示が掛かる。それで2時間。だから1日100カットぐらいやるときは、掛ける何粒って、個数で。

暗示なんですか。

俺は一応心理学も囓っていたんで。人間は体のどこかにスイッチを作ると意外にそれに従順なんですよ。つまり自己暗示ね。

それは確かに便利ですね。

自己暗示は“パブロフの犬”と同じで反射みたいなもんなんですよ。
それを自分で繰り返して、達成したという情報も脳に送るとやれるんだって気になる。それが習慣となって癖になる。

なるほど。

癖って元々、貧乏ゆすりでも何でもそうだけど、先ず足を動かしていたら気持ちが落ち着いたとかっていう快感から始まって、快感があるから反復するようになる訳で。それを意図的に作ればいい話なんです。

何か落ち着くようなものですね。

例えば歌でもいいし。ベートーベン聴いたら落ち着くとか、ゆずの曲を聴くと仕事が進むとか、何でもいいんです。そうやって何かをきっかけにリピートすると、苦もなくできます。

音楽聴いて作業する人は結構多いですね。

俺もアニメーターの頃は音楽聴いていたけど、絵コンテとか演出をやるようになってからは、自分のリズムを作らないといけないのに、他者のリズムがあると邪魔になってしまって。

確かにタイミングを付ける時はバラバラになってしまいますね。

なので演出になってからは、一切音楽を聴いていないです。車の中くらいかな。

演出1本目くらいの時に稲垣さんと一緒にやっていて、音楽を聴きながらやっていましたけど、同じ理由でやめておいた方がいいって言われました。リズムやテンポが変わるからって。

ヘッドホンしているのは、“私に触らないで下さい”っていう意味だしね(笑)。集中しているから邪魔しないでっていう意味でしょ?

ヘッドホンでがっちりガードしているって感じですよね。

監督の立場って、全方位に“大丈夫だよ、みんなの話を聞くよ”っていう態勢でいないといけないから、ヘッドホンなんかしていられないんだよね(苦笑)。

ひっきりなしに監督のところに人が来ますからね。監督だと外部からの刺激でテンションが落ちてしまうこともあると思うんですけど。

そりゃあ人間ですから、浮き沈みはありますけど。それでも仕事は仕事だから。
ところで、彼女はいるの?

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