![]() 最初からヒロインの名前はマブと決めていた
神山 『真・女立喰師列伝/Dandelion 学食のマブ』(※1、以下『女立喰師』)については、安藤さんに実際に声をかける前に、既にプロットはできていて、もうマブというヒロインの名前も決めていたんですよ。だからはっきりと当て書きだったんです。最初から麻吹さんに出てもらいたいと思っていたんで。 安藤 そうですか。でも、監督に『女立喰師』の話を聞いた時は、まだ『精霊の守り人』(※2)のアフレコも始まったばかりで、4、5回ぐらいしか会ってないですよね。個人的な話をしたこともなかったし。だから正直言ってかなり驚きました。しかも実写だなんて思わなかったので。最初はてっきりアニメだと思ったし(笑)。 神山 (笑)。『女立喰師』の企画を引き受けるにあたって、まずどこをとっかかりにお話をつくろうかと考えたんです。僕の場合、前作に出演というか「神山店長」の“素材”として出ていたので、そこをとっかかりにすれば脚本は書けるかな、と。じゃあ今回の企画のお題でもある「女優」をどうするか考えた時、バルサの麻吹さんがいるじゃないか、と。麻吹さんは舞台もやられているわけだし、バルサの強さと優しさをちゃんと表現してくださっている人でもある。それにやはり主演ですから、演出するこちらが「見ていたい」と思える人でないとモチベーションが上がらないんですね。それでOKをもらう前から当て書きで書いていたんです。だから、こちらとしては麻吹さんが駄目だったら、テンション下がるなぁとは思っていたんですよ(笑)。 安藤 そんな、駄目って言うわけないじゃないですか(笑)。 神山 いや、ありがたかったです、ホント。だからバルサ役のオーディションに麻吹さんがみえたのは、ある意味幸運だったなと思いました。バルサ役を選ぶ時のポイントは二つあったんです。一つ目の条件は、やはり武人だから「強さ」ですね。そこにプラスして二つ目は「優しさ」なんです。 安藤 オーディションの時にいただいたセリフは、第3話(「死闘」、※3)でバルサがチャグムに「森の奥に逃げるんだよ!」というところでしたね。 神山 そうです。あそこは、声を張り上げなければならないところなんだけれど、同時にチャグムへの愛情がほしかったところなんです。こういうのは資質もあると思うんですが、大勢の方がオーディションに参加してくださった中で、そこに愛情が込められている方は、数名しかいなかった。麻吹さんはその中でも、最初からそこがクリアできていた方なんです。 バルサというキャラクターに命を吹き込む
安藤 こんなことは滅多にないんですが、私はオーディションの時にバルサの絵を見た時から、自分がバルサ役をやるんだって勝手に決めていたんですよ。その時点では、原作も読んでいないし、具体的な情報もほとんどなかったにもかかわらず。それでも「バルサ役をとれなければ、私これまで何をやってきたんだろう」「だってこれは私でしょう」と思ったんですね。それはもう、勘ですね。勘としか言いようがないです。 神山 麻生(我等)さんのキャラクターデザインが、ちょっと違っていても、麻吹さんとは出会わなかったかもしれないですね。バルサのデザインについては、原作ファンの方の中には、文章で描写されているキャラクターにもうちょっと近づけてほしい、と思った方もいると思います。でも、目尻の小じわとか髪の毛から油が抜けてバサバサだとかいう部分をアニメのデザインの前提にすると、アニメだと30歳じゃなくて50歳に見えちゃうんですよ。アニメのキャラはどうしても記号のほうが前面に出てしまうので。麻生さんは画力があるから、完成したバルサよりもうちょっと老けさせることもできたかもしれないけれど、麻生さん自身が作品につきあうためにも、麻生さんが一番自分が描きたいヒロイン像を捕まえてもらわないとダメだろうとも思ったし。だからバルサについては、物語や声の芝居の部分も含めたトータルで、原作のバルサに恥じないキャラクターになれば、と考えたんです。 安藤 ああ、その気持ちはよくわかります。私はバルサを初めて見た時は「いい女だな」と思いましたよ。 神山 だからバルサについては麻生さんと麻吹さんがそれぞれいてくれて本当によかった。それによって作品をやり遂げられた、という部分は大きいですね。麻生さんは、そのほかのキャラクター造形でもいろいろと考えてくれて。ProductionI.Gって世界で一番オヤジを描くのが得意なスタジオなんですが(笑)、そんなI.Gのスタッフがこれまでみたこともないようなオヤジのバリエーションを描いてくれたりして。新聞の漫画雑誌の広告で麻生さんの絵を見て「これだ!」と思ったんですが、ほんとに受けてもらえてうれしかったです。 ――― では『女立喰師』の学食のマブというキャラクターについては、どうだったんでしょうか。 安藤 脚本は一読して、自分が演じるかどうかを別にしても、おもしろいと思いました。中盤で真相が開かされる展開とか、物語の積み上げ方とかが神山監督らしいな、と。たった20分間の作品なのに、いろいろなドラマがあって、ストーリーで見せる作品になっているのがすごく印象的でした。マブについては、タイトルにもある通り、ダンデライオン……タンポポみたいなキャラクターだな、と思いました。演じるにあたっては、マブの日常とかもいろいろ自分なりに勝手に想定しつつ演じました。具体的には内緒ですが(笑)。やはり一人の人物像として演じるには、動機がないと演じにくいので、そういう部分を考えたんです。もしそういう部分が違っていれば演技に出るだろうし、ならば監督のほうからダメが出るだろうと思って演じていました。そういうふうに役柄のことをいろいろと考えて試せるのは役者の特権ですから。 アニメと実写、監督と役者神山 今回は初めて実写を監督したわけですけど、終わってみて思ったのは、役者さんにもっとゆだねる部分を多くしてもいいんだな、ということだったんですよ。アニメは基本的にキャラが記号なので、キャラの演技はある程度記号的に作画してもらっても、ポスプロの編集や音響でかなり演出の考える方向に誘導できるんです。今回の『女立喰師』は初めての実写でもあるわけだから、あえてアニメ流の演出方法でやってみようとしたんです。だから麻吹さん以外の方は、自分も含めて、記号的に演じてもらったんです。終わってみると、それは手堅いやり方ではあったと思う一方で、役者さんの生理やリズムを汲んでそのカット内を演出していくということがあってもよかったかな、とは思いましたね。 ![]() ![]() ![]() ©2007 八八粍・デイズ/ジェネオン エンタテインメント ――― 『女立喰師』を振り返って、印象的なシーンなどはありますか? 神山 僕の場合はそんなわけで、ちょっと反省も多いので……(苦笑)。それでも回想で出てくる、河原のシーンの麻吹さんはとてもいい表情が撮れたなと思いました。 安藤 外の撮影は、いいですよね。 神山 やはり撮影してて面白いですしね。あそこは、もうちょっと撮りたかったなという感じがしたんですよ。ずっと雨だったのですけど撮影し始めたら運良く晴れたりして。ああいうのこそ、実写の面白いところなのでしょうけど。 安藤 私は同じ河原の場面ですが、神山店長のモノローグが妙にツボに入ったんですよ。「昼飯代をせびりやすかった僕から、さらにカツアゲでもするつもりだろうかと内心ビクビクしながら……」というモノローグですね。「どこまでマブを怖がっているんだろう、この人は」なんて思ったりして、すごく面白かったですね(笑)。あとはクライマックスで拳銃で撃たれるシーンをはじめて経験したんですが音が大きくてびっくりしました(笑)。 神山 (笑)。あの音は大きかったですよね。少し離れた僕でもびっくりしたぐらいだから、発砲の真向かいにいた麻吹さんは、もっとびっくりしただろうと思っていましたよ。……『女立喰師』を振り返ってみると、たぶん僕が今までつくった作品の中でも一番個人的な脚本だと思いますよ。映画監督になれなかった男が主人公ですからね。そういう個人的な部分があったほうが感情移入がしやすくて脚本が書きやすいんです。でも、それは書き終えた時に、一番奥に引っ込んでいくし、そうでなければ映画としてはダメなんですよ。最初の動機は個人的であっても、そこに多くの人が乗ることができる、というのがそもそも映画というものなんで。スタート時の動機にこだわりすぎるのは、映画を失敗させる要因なんです。その部分は進むにつれて切り替わっていかないといけないところで。 安藤 きっと『女立喰師』がなかったら、私はすごい監督さんとは思いつつ、ファン目線というか、もっと距離感があったままだったような気がするんですよ。けれど『女立喰師』のほうは監督でもあると同時に共演までしちゃったわけで(笑)。だから、なにかプライベートな話をしたわけでもないけれど、昔から知っているような感じになったというか。共演ってそういうことなんですよ。目と目を見てカメラがまわっている瞬間は心をパッと開けないと、共演なんてできないじゃないですか。お芝居ってそういうものですから。だから監督には今、すごい親しみがあって、なんとも言いようがないんですよ。もちろんすごい監督だと思って尊敬もしているんですが。 ――― 神山監督のお芝居はいかがでした。 安藤 素敵でしたよ(笑)。 神山 いやー、お世辞でも、そう言っていただけるとやって良かったのかなと少しは思えますね(苦笑)。 神山健治(かみやま・けんじ)1966年、埼玉県生まれ。埼玉県立秩父農工高等学校食品化学科卒業後、スタジオ風雅を経てフリー。背景並びに美術監督として活躍し、『AKIRA』(88)や『魔女の宅急便』(89)に参加。94年からゲーム業界に転身してムービー演出を手がけ、それがきっかけで沖浦啓之第一回監督作品『人狼 JIN-ROH』(00)の演出という大役を担う。96年にプロダクションI.Gで押井守が主宰する「押井塾」にも参加し、『BLOOD THE LAST VAMPAIRE』(00)の脚本、『ミニパト』(02)の初監督を務める。その後、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』シリーズ(02-06)を監督。DVDセールスでミリオンを記録する。07年は『精霊の守り人』のほか、初の実写映画『真・女立喰師列伝/Dandelion 学食のマブ』を監督し、高い評価を得た。 安藤麻吹(あんどう・まぶき)1969年、福岡県生まれ。俳優座研究所に3期生として所属後、91年に劇団俳優座に入団。三木のり平演出の「さりとはつらいね」をはじめとして、数々の舞台を踏む。『ダ・ヴィンチ・コード』(オドレイ・トトゥ)、『Mr. & Mrs.スミス』(アンジェリーナ・ジョリー)、『007/ダイ・アナザー・デイ』(ハル・ベリー)、『キング・コング』(ナオミ・ワッツ)など、おもに外国映画や海外ドラマの吹き替えで活躍する。アニメでは『精霊の守り人』のヒロイン・バルサ役に抜擢され、注目を集めた。 ▼安藤麻吹公式サイト「MABBY'S EYE」 ※1 真・女立喰師列伝/Dandelion 学食のマブ押井守監督と押井監督がその実力を認める若手たち総勢4人の監督が≪立喰師≫――押井監督が考え出した無銭飲食を生業とする架空の仕事師――というお題に挑んだオムニバス映画。お題の一つに「女優」を掲げ、六作品六様の女優が魅力を振りまいているのも作品の特徴の一つ。神山監督が脚本・監督を担当した『Dandelion 学食のマブ』は、ファミレスの店長と「学食のマブ」と呼ばれた学生時代の知り合いとの再会を描く。
※2 精霊の守り人上橋菜穂子の同名傑作小説を神山健治監督がアニメ化。単行本一巻分の原作を丹念に読み込み、オリジナルエピソードを加えて全26話に構成した。2007年4月から放送。現在は教育テレビ午前9時から放送中。 ※3 第3話「死闘」「水妖」の卵をその体に宿した第二皇子チャグム。国の平安を守るため、暗殺者「狩人」たちがチャグムに迫るが、チャグムの母・ニノ妃よりチャグムを託されたバルサは、彼らに単身立ち向かう……。 |
