成田亨と特撮美術

撮影/沢海 厚

第4回
模型のリアリズム

古い話になりますがアメリカ映画の「トラ・トラ・トラ」の日本軍の真珠湾攻撃シーンはすごいものでした。勿論特撮もあったのですが、ホンマモンに近い大きさの軍艦にホンマモンの飛行機が飛んでホンマモンの人間が動いているからすごかったのでしょう。0戦がちょっと型が違うとか、銀色の0戦が飛んでいるとか多少の不満はありましたが、とに角すごかったと思います。

すごかったと言う事を先づ前提にして言うのですが私の様に永年貧乏特撮で飼いならされていると小意地の悪い目が光るのです。戦艦アリゾナの主檀は三本の丸柱で立っているのですが、これが全くの丸い柱なのです。戦艦の主檀柱ですからかなり太いものですが昇る為の梯子の様な金具とか、鉄板の熔接部分とか、あるいはリベットとか、何かあるんじゃないか、また長い年月、太平洋、大西洋をはしり廻ったアリゾナだからもっとよごれていていいんじゃないか、と私は感じました。とに角ノッペリしすぎてもの足りないのです。つまりリアリズムがないのです。一体ここだけどうしたと言うのでしようか。

昭和51年夏、私は20世紀フォックスを尋ねました。アメリカの撮影所も日本と同じく、いや日本よりウンと厳しく、行ったから入れてもらえると言う訳にはゆきません。しかるべき紹介者の紹介状が必要です。勿論私もしかるべき紹介状をもって行ったのですが紹介者との約束でその方の名は伏せます。また帰国後20世紀フォックス見聞記も発表しないとの約束もありましたが、既に10年近くたつし、映画誌でないからいいだろうと思って本邦初公開します。

前の撮影所長のハルプリンさんにラスベガスから電話をして翌日20世紀フォックスヘ行きました。ハルプリンさんは自分で車を運転して私達を広大な撮影所の中をクマなく案内してくれました。そこで私は「トラ・トラ・トラ」の特撮をやったプールと、プールサイドに置かれている模型を見つけたのです。アリゾナかペンシルヴァニアだと思います。

プールは20メートル四方位の広さでした。これは私には意外でした。アメリカの特撮、特に「トラ・トラ・トラ」は大規模の撮影をしたと思い込んでいたからです。ちょうど東映東京撮影所のプールと同じ位。つまり100坪モノでした。また模型の方も私達がよく使う4m、つまり2間モノでした。そしてその模型はかなりアライのです。デテールが少いのです。撮影と風雨でトレたのではありません。はじめからデテールが少いのです。

これはミニチュアづくりは俺の方がうまいナ。などと私は一人でほくそ笑みました。「トラ・トラ・トラ」の迫力は総合的な演出による迫力で、ことミニチュアワークに関しては私達もマンザラではないと自信をもちました。

模型とは読んで字の如し型を模するであって、そのものではないのです。私達は模型を作って特撮を撮るのですが、撮影している間は模型でもかまわないのですが撮り終ったフイルムが模型では困るのです。ホンモノでないと困るのです。そこで私達は模型が出来てきてからいろいろの細工をします。大きく2つに分けてデテールをつけることと、エージングをすることです。それはその模型の生活感を出すことであり、リアリズムに近づくことです。デテールをつけると言うのは細い柱を立てたり、ロープを張ったり、梯子の様な金具を附けたり、リベットをうった様に見せたりします。エージングと言うのはよごしです。この艦が何年も風雪に耐えた艦であると言うことの表現です。模型を活かすも殺すもエージングだと私は思っています。この点が模型マニアの方との違いでしよう。

20世紀フォックスのステージでは「大地震」の撮影をしていました。これも私達と余り変りない撮り方だと私は思いました。撮影所の奥へ行くと100年前のニューヨークの街が広がりました。ステージと言わず、事務所と言わずベニヤで囲んで街を作っているのですが、私はその街を見て驚いたのです。絵のうまさにです。簡単に囲った布張りのベニヤに絵で複雑な旧いニューヨークを表現しているのですが、これは立派でした。絵描きの腕のよさが良く分るセットでした。

「ちょっと待ってくれ」。とハルプリンさんは言って一軒の小舎へ入って長話を初めました。小舎にはガス燈とかランタンとかがたくさん下っている電飾の小舎のようでした。車で待っていた私達はその日の朝辞任したニクソン大統領の話をしていました。「イヤーお待たせ」といった感じでハルプリンさんはその小舎の男と分れました。走り出した車の中でハルプリンさんが言いました。「今のがニクソン大統領の弟なんですよ。力を落していないかと思って励まして来た。」

連れて行った小学校3年生の私の娘は、この話に大感激でした。

結局「トラ・トラ・トラ」の特撮は劇の部分にうまく融合していて成功していたと思いますが、迫力の殆んどはホンマモンの撮影にあったと思います。そして私達は日本でただ金がない特撮の事をひがんでばかりいるのですが現実、目の当りに見ると、ひがむ必要はなさそうです。ひがむひまがあったら努力しろ、と言った感じです。

模型のリアリズムはデテールの処理とエージングだという事をかきましたが宇宙時代に入って宇宙船はデテールの少い単純な型に向かうでしようし、宇宙船の材質のエージングはこれからの課題だと思います。そしてホンマモンでは撮影出来ない、特撮に大幅に頼らざるを得ない時代が目の前です。

新しい模型のリアリズムの手さぐりの努力が始まるでしょう。

(初出:「模型情報」85年10月号)

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