
撮影/沢海 厚
第7回

AGING ― エージング
汚しです。ミニチュアーに汚しは生命だとこの前かきました。汚しによってミニチュアーが現実性を持つのです。模型屋さんが一生懸命作って来たミニチュアーを、ピカピカの美しいミニチュアーを私達は汚します。
汚すことによってその飛行機は製作されて何年たったか、何度闘ったか、何機敵機を落としたか、何度自分も被弾し燃えたかを表現しようとするのです。汚しはその機の戦歴であり顔なのです。
汚し過ぎればいいと言うものでもありません。歴戦の撃墜王の汚しと何度も被弾し燃えて修理を重ねた二機の場合、どちらをどう汚すか考えるのです。
そしてその機のイメージをもつ事です。イメージをもたずにエージングをしながら考えようという場合もありますが最初しっかりイメージをもった方がうまくいきます。
WASHING ― 洗い画き
エージングの基礎はこのウオッシングです。洗い画き、という言葉で表現しましたが、エージングすべき素材を濡らしながら描くという意味です。
小さな模型だったら水の筆で充分に塗り込んだ水の上に別に一本の筆を用意して、といたロー・アンバーをその水の上からたらしこんでゆくのです。水分が足りないと思ったら直ぐに上から補供し、ロー・アンバーが足りないと思ったらこれも上から初供します。たれすぎた場合はボロ布で下の方でたたく様にふき取ります。
ウオッシングはエージングの基礎であり、デッサンでもあります。この一回のウオッシングだけでエージングが完成する場合もあります。だから模型のどこを、どのぐらいエージングするか、自分のイメージを固めておくことが必要です。
例えば、ビルならば雨とホコリが流れたりたまったりしている間に、どこにビルのよごれが多いか、ビルを見て観察することです。エージングし過ぎたビルは古いビルになるし軽いエージングのビルは新しいビルになります。
船にしても宇宙船にしても同じですが飛行機や宇宙船の場合はそれ以外に飛んでゆく方向の汚れが大切になります。もの凄いスピードで離着陸したり空を飛ぶのですからその汚れが一番烈しいのです。零戦ならばスピンナーからカウリングと翼の下の真中が大切です。
宇宙へ行って帰ってきた宇宙船の頭部の焼けただれのすさまじさに驚いたことがありますが模型でのこれらの表現はウオッシングです。
SPOTING ― スポッティング
点描きですが丸い筆で点を一つづつ描くのではなく大きめの筆にタップリ溶いたロー・アンバーを少し離れてはじき飛ばすエージングです。従ってロー・アンバーの点がかかれば困る部分はマスキングして絵の具がかからない様にする事が必要です。
宇宙船、ビル、船の汚れなどに必要です。
この場合もウオッシングと同じで素材面を充分塗らしてやります。塗れた面にはじき飛ばされた絵の具が丸く散るのですが、水分と絵の具の量と、かわき方の時間で汚れが変りますから一度やって見てから模型にかかることです。
コンクリートで作った石にスポッティングして御影石の様な石に作り変えて行く場合もあります。この場合は白と黒の点を大小にならない様にスポッティングします。ディズニーランドの凝岩はすべてこのエージングです。
TUGH・UP ― タッチ・アップ
凹凸の強調です。べースに塗った色より少し明るい色で出ている部分を強調して行きます。この場合は大きい平筆の穂先の短い固い目の筆を使った方がうまく行きます。絵の具をつけた筆を別のベニヤか紙に塗りつけて絵の具分が少くなってから、かする様に塗ります。水分を必要としません。
岩、壁などには特に効果的です。
FINISH ― フィニッシュ
完成です。エージングの完成は自分の意図に対した時ですから今までかいた三種類の技法を全部やらないで、ウオッシングだけで完成する場合もあるし、逆にウオッシング、スポッティング、タッチ・アップ、そして又ウオッシング、又タッチアップしてウオッシングと重ねて深みを出してゆく場合もあります。自分の意図に対するまでやります。
以上模型あるいはミニチュアー・セットのエージングの基本的な技術をかきましたが、エージングの技術はまだまだ多様です。例えば日本家屋の柱、板、壁などは又別のエージングをします。オイル・ステインとかコールタール、石膏、しっくい、などを使います。
半年間もただ雑巾で毎日空拭きして感じを出したという例もあります。
宇宙時代の宇宙船のエージングの技術の開発はこれからでしよう。
(初出:「模型情報」85年11月号)