海老川兼武 メカニックデザイナー
メカデザイナーという仕事
──海老川さんは、今回の『機動戦士ガンダム00』ではどのあたりのデザインを担当されたんでしょうか。
海老川 主役のガンダムエクシアとコクピット内部、足の裏とか手のひらなどの基本コンセプトデザインとかの細部設定ですかね。それと戦艦プトレマイオスとその内部を担当しました。あと、他の3体のガンダムをデザインした柳瀬さんと一緒に、ソレスタル・ビーイング側のいろんな小物のデザインなどもやってます。
──今は作業の方は落ち着かれたんですか?
海老川 いや、今も忙しいですね。物語後半のメカデザインに追われてます。
──水島監督は、今回は少年マンガの王道で行くとコメントしておられましたが、大人でも十分に楽しめるリアルな内容になっていますよね。
海老川 ありがとうございます。『OO』は、世界観に矛盾が出ないように、SF設定とかはずいぶん気を使ってますよね。あと視聴者には、アメリカとか中国とかが実名で出てくるのが驚かれてるみたいです。IRAは危ないんじゃないかとか(笑)。でも監督がおっしゃってたんですけど、ハリウッドの映画って、あんまりそういうの気にしないじゃないですか。でも日本のアニメとか映画って、そういう部分を何か遠慮してるというか、あまりストレートに出さない。それに対するアンチテーゼなんでしょうね。
──かつて『聖戦士ダンバイン』で東京や米軍が実名で出てきたり、現用戦闘機がそのままのデザインで登場したことがありましたけど、確かに珍しいですね。
ところで、メカニックデザイナーの仕事でいちばん苦労される点というのは?
海老川 今回の『00』のことではありませんが、方向性を提示してくれない抽象的なリテイクというのは苦労しますね。「いいデザインなんだけど、ちょっと違うんだよな」「どの部分でしょうか」「いや、どこがというんじゃなくて、何となく」これ困っちゃうんですよね(笑)。あとラフスケッチで気に入ってもらったものをきれいにクリーンナップ(清書)して持っていくと「何かこう、もうちょっと…」って言われたり。逆に途中段階のラフで「いいね、これ」って言われたデザインを、細部にちゃんと手を入れて仕上げてから見せると「なんで変えちゃったの?」とリテイクが来たり(笑)。まあ人間同士のやることですから、お互いの意思疎通をしっかりするというのがけっこう大変というか、大事ですよね。だから、褒められたりOKをもらった時は、なるべく聞くようにしてるんですよ。「どこが良いですか、どの辺が気に入られましたか」と。
以前、本でミードさんがクライアントとやり取りされた様子を読んだことがあるんですが、やっぱり相手の求めるものをどう引き出すか、自分の考えをどう伝えるかという部分をおろそかにしてないなと思いました。
──アニメーション作品では、監督からデザインコンセプトの指示を受けて作業するわけですか?
海老川 『OO』の水島監督は、大筋から外れていなければ、細かいことはあまり言わない、なるべくデザイナーの意思を尊重してくれますね。
富野監督(富野由悠季。ガンダムシリーズの生みの親)は、ご自身でラフスケッチを描いてそれまでの既成概念をどんどん打破していくようなデザインを提案しておられますよね。初代ガンダムの時に、発注用のラフに描かれたモビルアーマーなんてすごいフォルムですし。でも、それは大河原さん(大河原邦男。初代ガンダムをデザインしたメカデザイナー)という磐石の土台というか受け皿があるからこそできたことなんだと思いますよ。
そういった指示出しって、監督さんによってそれぞれやり方に違いがあるみたいだから、いちがいにどちらが良いかはわかりませんね。
デザインについては脚本の黒田洋介さんからの提案が多いです。黒田さんからの「こういうコンセプトのデザインが欲しい」という要望を受けて、デザイナーの方で「じゃあこういうのどうですか?」みたいな感じで。もちろん最終的なジャッジをしてもらうのは監督なわけですけどね。だから、水島監督はスタッフの長所を引き出すタイプの監督なんだと思います。
シド・ミードの出会い
──海老川さんがシド・ミード氏を初めて意識されたのは、どの作品でしたか。
海老川 たぶん模型雑誌の『ホビージャパン』だったと思うんですが、ポリススピナーの作例が載ってたんですよ。とにかくかっこいいな、と思って。後に見たスピナーのカラーイラストも強烈なインパクトを受けたんですけど、最初に見たのは模型の写真だったと思います。だから出会いは『ブレードランナー』ということになるんですかね。(画集を見ながら)あ、これ『エイリアン2』のスラコ号ですよね。私、スラコ号も大好きなんですよ。あれって、当初は球体っぽいデザインが大きく変わって、映画のようになったんですよね。
──実はスラコ号に関してはおもしろい話がありまして。今度発売されるDVD(『VISUAL FUTURIST: The Art & Life of Syd Mead DVD』)収録されているんですが、ロスアンゼルスの工房で日本のアニメに出てくるような感じの宇宙戦艦のラフを見せてもらったことがあるんですよ。「これはいったいなんだろう、ミード氏の筆致ではないし…」と思ったら、実はキャメロン監督が描いた指示ラフだったんです。球体風のデザインを見て、監督が「もっとこんな風にしてほしい」と(笑)。キャメロン監督自身も以前は美術スタッフとかをやってた人ですからね。それであの直線的で攻撃的なデザインに変更したんだそうです。
海老川 おもしろいですね。ミードさんの場合、戦艦をデザインするとなると実物を造れてしまうんじゃないかと思うような内部構造まで描かれちゃうんですよね。細かいというかなんというか(笑)。
──デザイナーとして見た時、シド・ミード氏のスケッチやデザイン画というのはどんな特徴があるんでしょうか。
海老川 曲線と直線の組み合わせが独特ですよね。あと要所要所で斜めに入るライン。全体に流れるような線がきれいにつながってると思います。筆致も、迷いを感じさせない力強さでスッと入ってるし、うまく言えないけど見ればわかるんじゃないですかね、ああこれはミードさんが描いたものだなって。
ロボット以外のデザイン
──ところで、MS細部の基本コンセプトを担当されたということですが、今回海老川さんがやっておられる作業は、『ブレードランナー』におけるシド・ミード氏の作業と同じようなことなんでしょうか。シド・ミード氏も『ブレードランナー』では電話とかベッドとか、そういった小物を大量にデザインしているんですよね。
海老川 今回の『00』は、4人のメインデザイナーがいまして、勢力ごとに作業分担をしてるんです。それぞれの軍隊の兵器のイメージを統一するために。基本的な方向性を決めた後は、各デザイナーがそれぞれの感覚でイメージコンセプトを固めていくという方法をとっています。
だから、劇中の各陣営ごとについて言えば、それぞれのデザイナーがミードさんのようにコンセプトデザイナーをやっていると言えるかもしれませんね。携帯パソコンとかの小物もやりますから、そういう意味ではその世界にあるものを端から端までデザインしますよ。メモリースティックみたいな小物から宇宙船まで。
──そういう小物をデザインするのは、同じメカとはいってもロボットをデザインするのとはずいぶん勝手が違うと思うんですが、どうなんでしょうか。
海老川 そうですね。ロボットをデザインする時は、やはりどこか少し頭を使うところが違うような気がします。ロボットってキャラクター性が強いじゃないですか。日常的に使う小物なんかとは、その辺でやはり隔たりがあると思います。たとえば人間が使う電話とかをデザインする時は、やはり最初に機能ありきで考えますね。むしろ工業デザインと同じ感覚でしょう。ロボットにも小物にも、それぞれに別の「デザインする楽しさ、おもしろさ」がありますよ。
──工業デザインといえば、変わったところではミード氏は音響機器のデジタル表示部とかwebページのレイアウトなんかもデザインするそうです。海老川さんはそういったデザインにはご興味はありますか。
海老川 アニメ作品の中に登場するモニターのグラフィックデザインをしたりしますので。コーンソールとかも含めてね。ミードさんの作品も、参考にさせてもらったりします。モニターとかコンソールのデザインって、まさに機能の追及なんですよ。ある意味、メカとかロボット自体よりも未来感を出せるパートだと思います。
──でも、あまり未来的すぎると、機能的なんだかどうかもわからないんじゃないですか?
海老川 たとえば今、近未来的なオーディオプレイヤーのモニターとかをデザインしようと思ったら、私たちがすでに見なれているアイコン(再生を意味する▲や、停止を意味する=など)はあまり変えないで使うでしょうね。現実から遊離し過ぎてしまうと、結局それが何をする装置なのか、見ている人にはわからなくなってしまう。みんなが共通の認識として頭の中に持ってるような記号は残すと思います。その他の、あまり意識しないようなところで現用機械との差別化を図りますね。
──それはやっぱり、そのまま実際の工業製品としても通用するぐらいまで煮詰めていくものなんですか?
海老川 そこまでやる場合もありますし、雰囲気だけで留めておくこともあります。たとえば『戦闘妖精雪風』という作品(神林長平原作のSFアニメ。OVAとしてGONZOが制作し、バンダイビジュアルより発売)で戦闘機のHUD(ヘッドアップディスプレイ)とかを担当したんですが、あれも本当のリアルを突き詰めるとなると莫大な知識が必要になりますしね。とは言ってもリアリティを完全に無視すればそこで説得力が消えてしまいますし、リアルとフィクションの割合は、作品や状況によってケースbyケースですね。モニターグラフィックのデザインはけっこうおもしろいですよ。