『ビジュアル・フューチャリスト シド・ミード その創造と秘密』

前田真宏 アニメ監督・デザイナー

──今回発売されたDVD『VISUAL FUTURIST: The Art & Life of Syd Mead』は、もうご覧になりましたか。

前田 ええ、非常に興味深い内容でした。今回のDVDの中には、これまで見たことがないような絵が入っていましたね。『ブレードランナー』関連だと「デッカードの乗る地下鉄」とか「タイレルの棺(ひつぎ)」とか。映画の劇中には登場してませんけど、どういう場面だったのかとか想像できておもしろかったです。

──機能性を深く追及するデザイン姿勢というのは、ミード氏特有のものなんでしょうか。それともアメリカのデザイナーはそういう傾向が強いとか?

前田 いや、アメリカ人だからとかミードさんだからということではなく、それはID(Industrial Design)つまり工業デザイン的なアプローチなんだと思います。内部の構造が外形を決めるというやつですね。その上で、ミードさんはそこにどういう美を盛り込むかを追求されているのだと思います。

YAMATOから∀へ

──ミードさんと直接お会いになったことは?

前田 何度かあります。もともと『YAMATO2520』ていうアニメ作品で一緒に仕事をさせてもらったんですが、その時にお世話になったのが、今のエモーション会長の渡辺繁さんで、僕たち若手の新参組の面倒をまとめてみてもらってた感じですね。で、渡辺さんがミードさんとも親しかったので、食事の時に合流したりとかもありました。

GONZOを最初立ち上げた頃に、事務所近くの笹塚の居酒屋に、ミードさんと一緒に飲みに行ったことがありますよ。ミードさんが日本に来られた時に、当時プロデューサーだった渡辺さんが「あまりスクウェア(形式ばった)な席ばかりでは(ミードさんも)つまらないだろう」ということで、いわゆる日本の大衆酒場を見てもらおうということだったらしいです。で、笹塚にわりとおいしい居酒屋さんがあったんで、シンちゃん(樋口真嗣氏)なんかと一緒に呼ばれて盛り上がったりとか。

そのあと『∀ガンダム』でまた一緒にお仕事をする機会にめぐまれまして。ミードさんが∀のデザイン作業をしておられた時期に連絡が来て「ガンダムというものが、まだうまく掴めない。レクチャーしてほしい」と。で、出向きまして…。

──アメリカへですか!?

前田 いえいえ(笑)、来日されて赤坂プリンスに泊まっておられたんで、そちらへ。

--ミード氏は、来日された時はいつも赤坂プリンスだそうですね。丹下健三(建築デザイナー。赤坂プリンスホテルの設計デザインを担当)のファンだとか。

前田 そうですか。で、僕も当時、富野監督から声をかけていただいて『∀ガンダム』のデザインコンペに参加していたんで、その時点で描いていたスケッチを何点か持ってうかがったんですよ。

──ミード氏のデザイン作業の前にですか?

前田 いや、その時点でミードさんの方の基本コンセプトは、ほとんど出来上がってましたね。ウォドムとかスモーとか、もう形になってました。純粋にアニメーションキャラクターとしてのガンダムということではなくて、ミードさん独自のコンセプトによる世界観で、スレイブ、つまり人間の代わりに危険な作業をする重機械みたいなものをラフスケッチで起こしておられましたよ。まあMS(モビルスーツ)って、まさにそういうものですからね。人間の代わりに重いものを持ち上げたり、宇宙空間で戦闘したりするための重機ですから。

フラットの合理性

前田 ミードさんには、ガンダムの元々のイメージは『オデュッセイアだろう』と説明しました。宇宙都市国家って古代ギリシアのポリスみたいなものでしょう。太陽系を地中海に見立てて、地球の周りに独立性を持った浮遊都市国家であるサイド7とかサイド3とかがあって、その間をムサイみたいなガレー船が行き来する世界で、機動歩兵がいるわけですよ。その他にも、ザクはサイクロプス(一つ目巨人)で、だからモノアイ(単眼)なんだとか、機動歩兵だから盾とかジャベリンとかを持ってるんだとか、兜をかぶったようなデザインなんだとかね。つまり、ガンダムというのはサイエンス・ファクトじゃなくて、サイエンス・ファンタジーなんだということをお話しました。だから、出てくるロボットもそういうキャラクター性を反映したものだし、コミカルな部分もあるんだ、とね。だから∀のあのヨロイ武者のような造形とかは、そういったことを意識しておられたのかもしれません。歴史的な背景を取り込んで特色を出してみるというアプローチでしょう。

逆にフラットのデザインとかは、純粋に技術的なアプローチですね。僕がミードさんのMSの中で一番好きなのがフラットなんですけど、その時にラフスケッチを見てすごく感動したのを覚えてますよ。「これは凄い!」と。

──たしかにフラットとかウォドムは、それまでのMSの概念とはまったく違うラインでしたね。

前田 ええ。『GUNDAM CENTURY(銀河出版。1981年当時は、雑誌『月刊OUT』の増刊としてみのり書房から発売された)』という本がありまして、そこでスタジオぬえの人たちが「なぜMSは人型なのか」という解説をしてるんですよね。その本でAMBAC機動と命名されてましたけど、ボディ本体から突き出たウェイト部分、つまり手足を動かすことで瞬時に重心を移動させて、それによってアポジモーターを使わずに姿勢を制御する、だからMSの手足は宇宙空間でも有用だ、というわけです。

それに対するミードさんの答えが、フラットなんでしょう。もともとのデザインでは、フラットというのは展開すると十字型なんです。どこから見ても完全にシンメトリーが保たれる造形になっている。エンジンなんかは全部中心部分に集中配置されてるし、その中心部には工作機械を取り付けることができて、地上では4本の足で中心部を支える重機のような形態もとれる。中心部に荷物を吊り下げれば、歩くクレーンになるわけですよ。さらに、立ち上がれば人型になる。素晴らしいデザインですよ。これは絶対CGI(Computer Generated Imagery)にした方がいい、って思いましたね。まあ当時は技術的にそこまでは無理だったでしょうけど。

──前回のインタビューで、海老川さんもやはり「『∀ガンダム』は3DCG向きだ」と言っておられましたね。

前田 そう、GONZOでよくそういう話をしていたんです。∀もすごくかっこいいんですよ。フロントの部分は、トーチカみたいな頭部から車のボンネットみたいな胸部にスルッと面がつながるようなデザインなんですよね。これはやっぱり平面の絵よりは3Dで綺麗にモデリングして見せた方がかっこいいはずです。バックはバックで、内部の複雑な構造体が丸見えになっていて、これもやっぱり3Dで見せた方が立体感も強調されて迫力が出る。本当に立体映えするデザインです。

シンメトリーという選択

──先ほどフラットのシンメトリーデザインについてお話がありましたが、ミード氏のデザインにはシンメトリカルなラインがよく登場するように思うのですが、あれは機能を追及した結果なんでしょうか。それともミード氏の好みとか。

前田 やっぱり、理にかなってるということではないでしょうか。今回DVDを拝見して思ったんですが、もともとミードさんは空想好きな子供で、コミックアートとかにも関心があったみたいですし、彼のイマジネーション自体は非常に自由に羽ばたいているんだと思います。たとえば『トロン』に出てくるデータの海を飛ぶ船は、帆船をモチーフにデザインされてますよね。普通ならもっとメカニカルな宇宙船みたいなものを出しそうなのに、逆にあえてすごくファンタジックな味付けにしてる。そういう柔軟な発想をできる人なんだけど、反面、ビジネスマンとしての才覚もあって、ただ妄想して好きなように絵を描いているだけじゃなくて、社会と自分とのつながりというものを強く意識されているんだと思うんですよ。インタビューの中で「アートセンタースクールでの学校時代には、方法論を学んだ」と言っておられますよね。たぶん彼は、テクノロジーに関わる絵を描いていく以上は基礎的な科学知識は身につけるべきだと判断して、それを実践したんだと思います。そうした知識を基にして発注された内容を真剣に考えていった結果、機能性の高いシンメトリカルなデザインが出てくるんでしょう。『エイリアン2』でNGになった初期のスラコ号なんかもシンメトリーですね。映画に登場したスラコ号は銃器のような直線的スタイルでしたが、ミードさんの初期案はほとんど回転体の船体で、前後には構造物があるものの、上下左右おおむねどこから見ても同じ形状になっている。つまり、前後左右どの方向に対しても死角が無いデザインです。内部構造として回転モジュールを設定することもできます。宇宙空間用の戦闘艦としては非常に理にかなっている。

だから、シンメトリカルなデザインはミードさんの好みというより、哲学から生まれるものでしょうね。オーダーに沿って真剣に機能を追及するという姿勢から、自然と理にかなった形になるということでしょう。まあスラコ号に関しては、キャメロン監督の指示ラフに沿った線で改稿されたそうですが、監督はあの場面では機能性よりも強力なキャラクター性の方を求めていたんでしょうね。

結局それは、対象がどういうオブジェクト(物体)なのか、ということですよ。たとえば『2010年』で言えば、前作(『2001年宇宙の旅』)のディスカバリー号は精子の形だそうですけど、非常に静的でシンメトリカルなデザインですよね。それに対してのレオノフ号(『2010年』に登場する、ミードデザインの宇宙船)の直線的・非対称的形状だと思うんですよ。ミードさんに何にも条件を与えずに「木製探査船をデザインしてくれ」と頼んだら、たぶん初期案のスラコ号とか『スター・トレック』のヴィジャーみたいなシンメトリカルなデザインになるんじゃないでしょうか。でもレオノフ号をあえてああいう直線的・非対称的デザインにしたのは、あの船に求められるキャラクターを意識していたんでしょう。

──そうした彼の「キャラクターの立て方」のような部分に関しては、日本のアニメや映画のデザイナーとは違う部分もあると思うのですが。

前田 そうですね。基礎的な素養の違いというのは感じます。

たぶんミードさんは機械が好きなだけじゃなく、その仕組みを勉強することも好きという勤勉な面があるのでしょう。同時に、それを絵に描いて表現するのも上手いという、珍しい人なんですよ。機械や構造への興味と理解力があって、なおかつそれを具体的な絵で表現できる。その両方を持ってるというところが大きな違いかなと思います。しかもその絵の技術について言えば、守備範囲が広い。デッサンの基礎ができてるんですよ。工業デザインと言いつつも、彼はバウハウス(Bauhaus=1919年、ドイツで設立された美術学校。機能性を重視したモダンデザイン教育で知られる)に始まる近代デザインの歴史とか、そういうもの「だけ」を見ているわけではない。人体デッサンから何から、とにかく広範囲に学ばれたみたいですよ。

映画の仕事を始めてからは、映画のバックグランドボードを描く人たちとも付き合われたり。とにかく「いかにして世界を描くか」、つまり空気感とか光とかを意識的に駆使して、あたかもそこに自分のイメージした創造物が本当にあるように感じさせることに注力してる。見る人にエモーショナルな何かを喚起させる工夫をしておられるんですよ。本人は独学と仰ってましたけど、いろんなところからテクニックを吸収してるんですね。

そもそも、そういう風に「勉強」すること自体がお好きなんでしょう。単に仕事として絵を描くんじゃなくて、そうやって勉強して工夫して、というのを楽しんでおられる。そうしたことを「好きでい続ける」ということもまた、非常に稀有な才能ですね。自分もそうなんですけど、やっぱり人間って時間とともに興味が変わっていくじゃないですか。生活や環境が変わっていけば、おもしろいと感じるものも変わっていくし。でも、ミードさんはずっと「描くこと」が好きなままなんです。DVDの中でホームパーティの話がありましたけど(ミード氏の自宅でのパーティ。客たちが楽しんでいる間、ミード氏は自室でずっと絵を描いていた)、あれを聞いて「ああ、この人は本当に描くこと自体が好きなんだ!」って思いましたよ。自分がインタビューされてる間も、ずっと絵を描いてるし(笑)。呼吸をするように絵を描ける人なんですね。これはもう、ぜんぜん次元が違いますよ。

──毎日、定時に仕事場に入って、夕方までずっと絵を描き続けるという生活様式をとっておられるようですね。

前田 ええ、以前ハリウッドのご自宅にうかがった時もそうでした。真面目さと集中力なんでしょうね。興味を持った対象をじっと見つめ続けるということを、それこそ少年時代からやっていたんじゃないでしょうか。

シド・ミードという人物

──直接お会いになった時のミード氏の印象は、どんな感じでしたか。

前田 すごく朗らかな感じの人で、言ってみればジェントルマンでしたね。優しい人なんですよ。印象的だったのが、一緒に飲んだときに、スタッフのひとりが酔って、そこに居ない別のスタッフへの愚痴というか、ちょっと悪口っぽいことを言いだしたんですよ。まあちょっとしたトラブルもあって、ミードさんも含めてスタッフ全員が、思うところが無いわけでもなかったとは思うんですけど(笑)。ミードさんはにこにこ笑って聞いたその後で「そんな下品なことを言うのは良くないことだよ」って穏やかに諭してたんですよね。ああ、大人だよなぁって思いましたね。スタッフにちゃんと敬意を払いつつ、言うべきことは言うみたいな感じで。

──絵を描くことがお好きであると同時に、それを仕事としてきちんととらえられる方なんでしょうね。

前田 普通は、どちらかに偏ってしまうことの方が多いんですよね。描くことが大好きな人だと、他人に茶々を入れられたくないというか「これは私の世界なんだ!」っていう風にそれを守る方向に行ってしまう人が多いし、逆に「これは仕事なんだ」と割り切りすぎる人は情熱が保てない。でも、ミードさんはそうじゃないんですよ。どんな仕事でもクライアントの話をちゃんと聞いて、それに沿う形で自分に何ができるのかを考える。ある意味、割り切ったビジネスライクな考え方とも言えますけど、じゃあ嫌々やっているのかというと、決してそうじゃない。自分とは違う発想や意見を柔軟に取り込んで発展させる、コラボレーションとして考えておられるのかもしれない。

『YAMATO2520』で最初にお会いする時は、とても緊張してたんですよね。世界的なデザイナーですし、僕らにとってはある意味、伝説の存在なわけですから。だってあの『ブレードランナー』のビジュアルコンセプトメイカーですよ? もう、凄い緊張の中で作業に取り掛かったんですけど、お会いしてみたら本当に気さくな方で。『∀』の時にホテルに呼んでくださったのもそうだと思うんですけど、すごく謙虚なんですよね。知らないことは聞く、その場に居合わせた人がたとえ素人でも、その意見にも耳をかたむける。自分にとってヒントになることがないかを真面目に検討するんですよ。で、話してる途中でも「お、いいことを思いついた」とか言って、ナプキンでもなんでも手近な紙にラフを描き出したりする(笑)。

──ハリウッドのミード氏の仕事場にも、アイデアを描きとめたナプキンとか紙の切れ端が保管されていましたね(笑)。描くものを選ばないと言えば、前田さんも、同じようなエピソードがあるそうですね。GONZOでガメラのデザインをホワイトボードにお描きになって、あまりにその出来がいいので誰も消せなかったとか。結局、写真に撮って泣く泣く消したとスタッフの方が言っておられましたが。

前田 ああ、ありましたっけ(笑)。まあボード使えないと困りますからね。

『YAMATO2520』の時に、みんなで鉄板焼きのお店に行ったんですよ。ちょうどトヨタ自動車が企業ロゴマークを今のタイプに変更した頃で、あのアメリカっぽいというか、楕円の組み合わせでブルホーン(牛の角)みたいな感じでトヨタの「T」の字になってるやつですね。食事しながら、そのロゴの話になった時に、ミードさんがさらさらっとナプキンにそのロゴを描いて「ビーフボール(牛丼)の看板にも合うよね」ってジョークを飛ばしたりして。とにかく、会話しながらでもパッパッと描いてしまう。

──描くという行為が完全に日常に溶け込んで、何の気負いも抵抗も無いんでしょうね。

前田 ええ。だから、僕ら現場の人間もとても仕事しやすかった。デザインやイラストのチェックでも、FAXで実際の形をすぐにやり取りできて話が早いですよ。あの作品で出てくるリンボス星の背景とか美術なんかは、僕の方で元スケッチを描いてFAXを送ったら、それにミードさんがレスポンスしてくれるような感じでした。

当時、YAMATOの船体はすでにミードさんの方でデザインしておられましたね。いちばん最初に西崎プロデューサーから、本当の船をデザインする時みたいに仕様の発注が行ってたんだそうですよ。全長とか重量とか乗員数とか、あと恒星間を航行するクルーザーであるとか。

あとYAMATOといえば、ミードさんの図面をもとに、小林誠さん(イラストレイター、デザイナー、アニメ監督の他、モデラーとしても有名)が正確に造った巨大な模型もあったんですよね。全長3mぐらいの巨大なYAMATOが。もう壮観としか言いようがないシロモノで、彼は同スケールの宇宙戦艦ヤマトと日本海軍の大和も造ってたんです。ものすごい仕事人なんですよ、小林さんは。

まあミードさんに関して言うと、人柄もいいしあれだけの仕事ができる人でもあるし、非のうちどころが無いというか、まさに成功するべくして成功した人なんじゃないでしょうか。

Profile

前田真宏(まえだ まひろ)

63年生まれ。アニメーション監督。東京造形大学在学時よりTV作品「超時空要塞マクロス」宮崎駿監督作品「風の谷のナウシカ」の原画を担当。卒業後は「天空の城 ラピュタ」の原画をはじめ、劇場用長編アニメーション「王立宇宙軍 オネアミスの翼」にメインスタッフとして参加。その後スタジオジブリ、GAINAXを経てを92年、有志とともにアニメーションスタジオGONZOを設立。98年、GONZOの出世作となったOVA作品「青の6号」で監督デビュー。その斬新な映像スタイルは業界内外で高い評価を得る。代表作に「ANIMATRIX The Second Renaissance 1&2」(03)、「巌窟王」(04)などがある。現在は2008年公開の短編オムニバスアニメーション「Genius Party」の第2弾を制作中。

前田真宏オフィシャルブログ「INUBOE」
http://inuboe.exblog.jp