前田真宏 アニメ監督・デザイナー手描きが生み出す曲線──前田さんからご覧になって、ミード氏のデザインラインの特徴とかはありますか? 前田 出渕さんのブチアナとか、河森さんのネジみたいなものですか? うーん…。ミードさんの場合、さっき話しに出たシンメトリーみたいなものでも、必要なところに使うだけで無闇に多用してるわけでもありませんしね。特徴ですか…。 アニメーションのメカデザイナーって、アニメという技法によって最初からものすごい制約を受けるんですよね、アプローチに。出渕さんにしても河森さんにしても、あれは一種のサインみたいなものなんですよ。アニメのデザインって、秒24コマの動きの中で人間が視認できるもので、なおかつ(アニメーターが)人間の手で描けるものでなければいけない。それはすごく大きな縛りなんで、その中で苦心して編み出された技法なんでしょう。でも、ミードさんのデザインってそういうものにまったく縛られていないので、単純な比較はしにくいですよね。まあ僕が個人的にいつもミードさんの絵を見て感じる特徴は、ドローイングの線でしょうか。線のタッチというよりも、人間の手がヒュッと描いた弧の美しさ。カーブにしても円にしても人間の手で描く時の独特の感じというのがあるんですよ。そういった線を描くのって、その人の手の長さという物理的な要件と技術の兼ね合わせだし、ご自身のインタビューでも言っておられましたよね、紙との感触が大事なんだ、というような…。 ──「触知性」という言葉でしたね。 前田 ああ、それです。フィードバックを大事にしているということですよね。筆圧とか、筆を通して手に返ってくる感じを大事にするみたいな。自分もよく、絵を描く時に「柔らかくなれ、柔らかくなれ」とか「硬くなれ、硬くなれ」と念じながら描いたりするんです。今描いてるこの物体は硬いものなんだ、という風にイメージしながら描くといいものが出来たりすることがある。彼はそれをもっと意識的に行なっているんだろうな、と思います。それはトレーニングで身に着けたものなんでしょうね。肉体と頭脳のコンビネーションから生み出される曲線というか。彼が機械をデザインする時はその内部構造とかも考えておられるんですけど、最終的にそれらを纏め上げていく「面」が特徴的であり、その「面」を表現しているのは「線」なんですよね、平面上の作業なわけですから。パースペクティブの上に曲線を乗せていった時に、物体のシェイプ(形状)が立ち上がってくるんです。そういう曲線がミードさんの持ち味でしょう。とにかく気持ちいいんですよ。消失点が画面の中に入り込んでいるようなパースの効いた絵をよく描かれますよね。その点に向かって画面内のすべてのものがキュッと集中していくような構図、こういう時にその描線の気持ちよさというのがものすごく活きてくるんです。それが一番の特徴なんじゃないでしょうか。 彼のガンダムは立体の方が映えるというのもそれなんですよ。曲線が集まって綺麗な3次元の曲面になっている。フェラーリのボンネットの美しさとか、そういう種類のものなんですよね。イタリアの車は1リッターの大衆車でもそうです。写真で見るとなんてこともない形状に見える。日本の小型車と何が違うんだという気がしますけど、実際に見ると、単純な平面だと思ってた部分が綺麗な曲面になってたりするんですよ、ちょっとだけ絞りが入ってたりして。そういうのって、人の手が創る何かだと思うんですよね。目で見て、微妙な感覚で「ちょっとだけ絞ってみるか」みたいな。手だろうがマウスだろうが、デバイスは何でもいいんですけど、そういう感覚的な部分をデザインとして取り込んで、それをモデラーが形にしていく感じかな。人間の手の温かみがあるデザインですよ、ミードさんの作品は。そういう意味では、彼はふたつの世代の橋渡しをする人でもあるのかもしれない。手描きデザインの世代と、最初からCADとかを使ってコンピュータ上でデザインをする世代の。それは彼の作品の、もうひとつの特徴でしょうね。 古き良きアメリカ前田 もうひとつ、特徴ということで今ふっと思ったんですけど、彼の作品はとてもアメリカ的なんですよ。バタくさいというかね。僕らが子供の頃に見てきたアメリカ、たとえば『リーダーズ・ダイジェスト(1992年創刊の米国最大のファミリー雑誌。毎月1200万部以上を発行)』とか『ナショナル ジオグラフィック(1888年創刊の米国を代表する科学雑誌)』みたいな雑誌に載ってる広告、あの世界なんですよ。そうした広告用イラストの方法論をきっちり踏襲してる部分がある。色の使い方、マチエール(絵の表面の質感、テクスチュア)の入れ方、省略の仕方、構図。そこに描かれているものすべてがとっても懐かしい感じがするんです。僕らの世代が彼の作品に夢中になるのは、そのあたりもあるんでしょう。リッチで豊かなアメリカ、色彩ゆたかで素敵な生活、古き良きアメリカですよね。 ──実際にミード氏は、広告用のイラストなども描かれていますね。 前田 ええ、日本の広告のためにもいくつか描かれていましたね。ホンダ用のとか、国際スポーツフェア用のイラストとか。オールドアメリカンな香りを感じるんですよ。デザインのシェイプにも、そういった香りがあると思いますよ、明らかに。DVDのインタビューで、最初にお父さんが買ってくれたチェスリー・ボーンステル(Chesley Bonestell。天文美術のパイオニア)の画集の話が出てましたけど、実は僕もボーンステルの本を買ってもらったことがあるんですよ。火星に行く話の絵本だったかな。三段式の翼のついたロケットの絵とかあってすごく好きだったんですよ、ボーンステルの絵って。ああいう50〜60年代の香りというのは、ミードさんの中にも強烈にあるように感じます。ボーンステルは天文画家という特殊なジャンルの人ですけど、ミードさんの絵はもっと広範囲に延びているというか何と言うか…。たとえば一方に家具とかグラフィックデザインのイームズ(Charles Ormond Eames, Jr。1907-1978.アメリカのデザイナー)みたいな人の曲線の世界とか、他にもグラフィックアートの世界があってコミックの世界があって。それらを横断するアメリカらしさって何だろうと考えるんですけど、それとミードさんが持っている曲線の美みたいなものが、何かつながっているよう気がするんですよね。 最初は手遊び(てすさび)というか、訓練された手から繰り出される曲線や意味不明なドローイング、つまり線が集積することで何か形が見えてくる。画集なんかで見る彼のラフスケッチはまさにそういう過程を表していると思うんですけど、それを最終的にイラストのかたちに仕上げていくと、背景にあるちょっとした木の描き方であるとか、車の表面の反射であるとか、周囲に配置された人物の姿かたちであるとか、そういういろんな部分に何か古き良きアメリカを感じるんです。繁栄に向かって人々の生活がどんどん豊かになっていった時期の、アメリカの素敵な面というのが散りばめられているような気がする。レトロフューチャーという言い方があっているかどうかわかりませんが、彼の絵には「Golden 60's(黄金の60年代)に夢見た未来」みたいなものが、今も色濃く残っているんです。それは、他の人があまり持っていない部分なんじゃないでしょうか。インテリアデザインとか、特に豊かな感じがします。曲線の雰囲気なんかもジウジアロ(Giorgetto Giugiaro。1938〜。イタリアのデザイナー。アルファロメオ、VWゴルフ、フィアット等で多数のカーデザインを手がけた他、インテリアや家具のデザインでも有名)さんとかとは別のラインでしょう。ミードさんご自身はジウジアロさんともお仕事されたことがあるそうで「彼はマエストロだ」と仰ってましたけどね。ランチア・デルタという車をジウジアロさんがデザインした時に、ミードさんはダッシュボードをデザインされたそうです。最終的に採用されたバージョンなのかどうかはわからないんですけど。 何年のモーターショーだったか忘れましたが、ミラノでのショーでジュジアロさんが発表された二人乗りのオープンカーがあったんですけど、それが完全なミードラインだったんですよね。『ブレードランナー』の直後だったと思うんですけど、絶対影響受けてると思いましたよ。それまでのジウジアロさんのデザインラインと全然違う。僕の中でジュジアロさんって「洗練された美」の人で、ピニンファリーナ(イタリアのカーボディデザイン・製造会社。ピニンファリーナ家による一族経営)より少し理性的な線を描く人であり、綺麗な面をデザインする人なんです。でもそのオープンカーって全然そうじゃなくて、SFガジェットみたいなデザインなんですよ(笑)。ボートみたいな形のボディにF1マシンのコクピットをふたつ並べたような感じで、ドライバーは低いシールドの下に潜り込むようにして乗り込む。で、サイド部分に意味不明のSFメカみたいなディティールが入ってるんですよ。SF映画のプロップによくある、プラモのパーツを切り張りして作ったようないわゆるゴチャメカっていうやつです。もちろんジウジアロさんの造形ですから、無意味なものではないと思いますよ。給油口だったり何かしらの機能があるんでしょうが、ちょっと遊び過ぎの感があるデザインだった。僕はひとりで確信してましたけどね。「ああ、ミードさんにインスパイアされたんだな」って(笑)。 映画の中のミードメカ──ミード氏の参加された映画では、どの作品がお好きですか。 前田 やっぱり『ブレードランナー』ですね。今回の劇場公開は忙しくて行けなかったんですよ。最近はあの作品を大画面で見れる機会もあまりないので、すごく残念だったんですけど。昔は名画座といって2番館、3番館でよく上映してたんですよね。当時はまだビデオなんかも発売されてなくて、僕も劇場で10回ぐらい見ましたよ。 ──前回のインタビューで、海老川さんはスラコ号がお好きだと仰ってましたね。 前田 ああ、彼は『エイリアン2』が好きというよりスラコ号が好きなんでしょう。彼のデザインラインとか考えると、わかるような気がしますね。 ──前田さんは、そういうアイテムはありますか? 映画とは関係なくお好きなミードメカということで。『エイリアン2』の他にも『ショートサーキット』とか『クライシス2050』とかいろいろありますが。 前田 ああ、『クライシス2050』の宇宙船なんかは典型的なシンメトリーですね。好きなメカということで言うと『2010年』のレオノフ号とかは好きですよ。彫刻みたいな感じで。 でもやっぱり一番はスピナーかな。あれを見た時のインパクトは大きかったですね。まあスピナー単体というより、街並のデザインなんかとひっくるめたトータルで受けたイメージが大きいんでしょうけど。まあミードさんとリドリー・スコット監督のコラボレーションが良かったんでしょう。ミードさんの初期案にあった、割とツルンとした雰囲気の空飛ぶ車が、だんだんゴチャゴチャしたディティールを付け足した感じになっていったじゃないですか。汚しを入れたりして、ハイテクなんだけどかっこよくはない、後から付け足したアクセサリーでごちゃごちゃになってるような感じ。ああいう生活感を取り入れるのって『エイリアン』から綿々と続いてるリドリー・スコット監督のSF観なんでしょうね。それがミードさんのデザインとうまく響きあってたんだと思います。 逆に言うと、後にミードさんがデザインされた映画のメカって、ミードさんのイメージ通りに仕上がってて、ちょっとクリーンすぎるんですよ。『ショートサーキット』の主人公ロボットNo.5にしても、『ザ・コア』の地中探査艇バージルにしてもね。『エイリアン2』のドロップシップとかAPC(Armoured Personnel Carrier=装甲兵員輸送車)は劇中での使われ方がかっこよかったんでファンも多いし、もともとミリタリー色の強いメカだからオーソドックスな線を狙ったんでしょうが、デザイン単体として見ると実はそんなに興味深いことをしてるわけじゃない。まあそのそっけなさが逆にリアルで、ミリタリーファンとかにはたまらないんだと思いますが。 だから、僕個人の好き嫌いで言えば、真面目なミードさんの「実際に空飛ぶ車があるとすれば、こうなんじゃないか?」というコンセプトメイクと、歌舞伎町みたいになってる未来のロスアンゼルスとの対比というか、そういう風景の中にあるスピナーの在りようがいいんですよね。綺麗な未来都市やハイテクサーキットの中にスピナーがいても、それはさほどキャッチーではないかもしれない。整備されたオーバルコースでスピナーが走ってる絵で「レースに命を懸ける男たち!」とか何とか言っても、ピンとこないんじゃないかな。薄暗い荒んだ街にあのツルンとしたウィンドウのスピナーがスーッ降りてくると、すぐ横には50年代のオンボロなプリムスなんかが走ってるという、このコントラストがかっこいいわけですよ。 キャラクター性とストーリー性──ミード氏がブレードランナーでデザインした車両というのは、スピナーを除くとすべて直線ラインで構成されていますね。 前田 予算のかけ方でしょう。平面の板で作れるものと、こんな大きな曲面キャノピーが必要なものでは手間が全然違いますからね。もちろんキャラクター性の描き分けという意味もあると思いますよ。空を飛ぶ特別な車ですから、他の一般車両と違うイメージ付けということでしょう。スピナーだけはどこから見ても流滴型にしてあるけど、他の地上走行専用の車はその時の流行り廃りでみんな似たようなイメージになってるという設定なのかな。あの世界では一時期のイタリアの車みたいに徹底的に平面と直線で構成したデザインが流行ってるとか。でもセバスチャンのバンなんかは、ゴチャゴチャしたわけのわからないゴミ収集車みたいな感じが、いかにも彼のキャラクターに合ってますよ。 ──『ブレードランナー』は、ミード氏としては2作目の映画ですが、その頃からすでにキャラクターの描き分けを意識しておられたということなんでしょうね。 前田 まあ、最初の『スタートレック』のヴィジャーの時は、プレゼンでイメージボードをスタッフに見せても「何だこれは?」と言われたそうですが(笑)。ヴィジャーって巨大すぎて画角に納まらないんですよね。もちろん全体の三面図はきちんと描いててそれを見ればどういう立体構成なのかは一目瞭然なんですが、ミードさんの場合、プレゼンの段階で構図まで提案してるわけですよ。画角に入りきらないというカメラアングルにすることによって巨大さを演出するという撮影案を提示してる。小さい頃からコミックアートが好きだったり、若い頃にはアニメーションのお仕事の経験もある。だとしたらそういう発想ができるのは、何も不思議なことじゃないでしょう。ただ車をデザインするだけじゃなくて、どんなシチュエーションでどこにその車が置いてあって、ということまで自然に考えるんでしょうね。 ──DVDの中でも、ミード氏のことを「ストーリーをプレゼンするのが上手い」と評する人がおられますね。 前田 そうですね。だからこそ『CENTINEL』なんかのミードさんの画集が爆発的に支持されたんでしょう。洋書にも関わらず、日本でもすごく話題になった。絵ですから、見ればわかる。そこに人間の営みやストーリーを感じる。言葉なんて関係ないんですよね。 ──人物の配置や使い方が上手いというのに通じる部分でもありますね。どんなに空想的で先鋭的なデザインのメカでも、その横に生活感のある人物が配置されたとたんに非常にリアルに見える。 前田 それはありますね。工業デザイナーならシチュエーションぐらいなら描けるでしょうけど、あそこまでトルソ(人物画)が上手い人というのはあまりいないと思います。もっと流すというか、雰囲気で描いてしまうだけの人がほとんどでしょう。でもミードさんって人物でも決して気を抜いていないですよ。傍らにいる人物でも、シチュエーションからファッションまで全部きっちり描いてあって、身に付けているもののマテリアル(素材)までわかる。この素材は硬いとか軽いとか、透き通ってるんだとか、このプリント地はサイケ調の生地だなとか、全部描き分けてる。ポージングや表情も、省略しつつも状況がしっかり伝わるように描いてある。あれは、クライアントのオーダーじゃないですよ。ミードさんが思わず描いてしまうんでしょうね。彼の空想は、デザインした物体だけに留まらずに、実際の生活でそれが活用されているシチュエーションまで広がっていくわけです。そこはもう、単なるデザインとかビジネスを超えた「絵描き」としてのミードさんの部分なんでしょう。 デジタルという道具前田 ミードさんのお宅にうかがったのは『YAMATO2520』のプレゼンの時だったと思います。その時にミードさんから強力な提案がひとつありまして、宇宙戦艦のシーンはCGIでやらないか、ということだったんですよ。当時、アシスタントとしてCGI担当の方を置いていらして、もうYAMATOの3Dモデルもできてたんですよ。もちろん、ごく簡単な低ポリゴンのものでしたけどね。それを使って、デモ用のアニメーションなんかも作っておられた。でも当時はまだ、CGIといっても普通の人はピンとこないような感じでしたし、まだインディゴとかの時代だったんじゃないかな。金額的にもかなりのものだったと思います。今からだと隔世の感がありますね。 ── デジタル技術に関しては、ここ数年で倍倍ゲームのように飛躍的に能力が伸びたし、データ製作にかかる金額や手間は格段に改善されましたからね。初めからこうした環境の中で育つこれからのクリエイターが、どんなものを生み出すかは楽しみでもありますが。前田さんご自身は、そういったデジタル技術をすでにデバイスとして取り入れることで作業が変化したりしましたか。 前田 いや、実際の作業では昔とほとんど変わってませんね。アニメの製作は、いまや完全にデジタル技術に「おんぶに抱っこ」状態なんですよ、修正にしても何にしても。「こうして」と言えばその通りになって出てくる。だから当然、無縁ではないんですけど、僕自身の作業はアナログですよ。 ──デザインのときに、3DCGで形状を確認したりとかしませんか。 前田 まったくしませんね。そういう意味では、僕はずいぶん時代遅れなのかもしれませんよ(笑)。ミードさんもそうだと思うんですけど、最終的には自分の手で描くということを信じてるんじゃないでしょうかね。 ミードさんは勉強熱心な方だから、CADなんかも使ってみられたようです。『KRONOLOG』という画集に、東京湾岸の未来の姿を描くためにCADを使って東京の地図や建物の立体モデルを作る過程が載ってます。でも、肝心のイラスト自体は手描きで作業されてる。CADのデータはあくまで構図の選定とかイメージの助けとして使ってるんでしょうね。建築プレゼンテーションなんかでは正確なシチュエーションが求められるんで、これはある意味、有効な方法かもしれません。 YAMATOの時も、ペインターやフォトショップというソフトは使っておられましたよ。たぶん、そういうデバイスをやり込むというかどこまで使い倒せるか、みたいなことがお好きなんでしょう。でも、その時もやってること自体は変わらないという感じでしたね。ミードさんも僕と同様に、いまだに手描きで作業しておられますけど、デジタル技術を知らないとか興味ないんじゃなくて、そうした知識や技術を把握した上で手描きを選択しておられるんでしょう。 僕も、イラストの仕事とかではフォトショップとか使いますよ。それは単にデバイスの使い分けですね。作業によってはフォトショップやペンターの方が便利だし、手描きの方が効率的な部分もある。紙と顔料によって生み出される偶然性のマチエールってあるじゃないですか。これをデジタルで意図的に作り出すというのは、けっこう面倒くさいんですよ。そういう「味」みたいなものは、紙の上で作った方が早い。タブレットも使ったことはありますけど、今はほとんど使わない。もう手が鉛筆に慣れているし、手で描く線を活かしたいというのもあるんで、線画や絵の具の塗りは手で作業します。それらを別素材として取り込んで、最終的な統合の段階でレイヤーをかまして大きなグラデーションを入れたり色を調整したりという使い方かな、デジタルは。でも、結局それ以上ではないんですよ。昔からあるマスキングツールなんかと同じ、補助的な何かでしかないんですよね、僕にとってデジタルというのは。だから僕自身はあまりデジタル的な発想をするタイプじゃないけど、最初からそういうツールを使って絵を描いてきた若いスタッフが何を発想するかには興味がある。僕たちがこれから目にするものを形作っていくのは、そういう発想なんでしょう。それは楽しみではありますね。 ──技術と発想ということでは、携帯電話なども、その普及前と普及後ではアニメの作劇パターンにも違いがあるでしょうね。 前田 いや、まったくその通りなんです(笑)。『厳窟王(前田氏監督のTVアニメ作品)』なんかでも、携帯電話があると成り立たない状況とかがたくさん出てくるんですよ。だからあの作品では「もう忘れよう、携帯なんか無いことにしよう」と決めたんですよ。この世界には携帯は無い、貴族はそんなもの使わない(笑)! 通信手段のステータスとしては手紙が最高なんだと。そうでもしないと「これって、1本電話かければ解決するのでは?」という状況があまりに多すぎるんです(笑)。携帯電話の出現で人間のコミュニケーションってガラリと変わっちゃったんで、これまでに作られた作品と今後出てくる作品では大きなギャップがあるでしょうね。 ──80年代以降だと、推理小説でも「なぜ携帯を使わないのか」という理由をいちいち設定しなければならないような状況ですからね。 前田 たぶん昔の作品なんか読むと、若い子は「なんで電話しないの?」と思うんでしょうね(笑)。 ──初期の携帯電話なんて、大きいし重いし、バッテリーも実動1時間ももたないような不便なもので、とてもこんなに普及するとは思えませんでしたからね。高性能なリチウム電池の登場で状況が一変しましたが、電池というのは今後もっとも新技術が期待される分野のひとつですね。技術が進めば、また携帯電話のような社会的大変革があるかもしれませんし、そうなればSFの世界もその余波を受けるんでしょうね。 前田 太陽光発電でエネルギー問題解消とかね。まあ太陽光にしても原子力にしてもバイオエタノールにしても、利権がらみになるのは世の常ですか(笑)。今はお金持ちの人たちが、利権の札をシャッフル中というところでしょう。 『おんみつ☆姫』と『Genius Party』──最近のお仕事の状況は。 前田 今はスタジオ4℃さんで『Genius Party』という映画の第2弾を作業中です。来年公開なんですけど、1本15分ぐらいの短編オムニバス作品で、その中の1本『GALA』というのをやってます。僕のはベタにアニメっぽいです(笑)。僕以外は森本晃司さん、中澤一登さん、田中達之さん、大平晋也さん、すごく濃ゆいメンツでしょ? 負けられません! あと、最近作業が終わったのはNHKの『おんみつ☆姫』という1分の短編アニメ。1分なのに47カットで、作画枚数2000枚という、何かとんでもないことやってしまいました(笑)。「アニ*クリ15」という帯番組の第三シーズンで、現在放映中です。僕の他に河森正治さんとか新海誠さん、マイケル・アリアスさん、今敏さんもそれぞれ、1本づつ作っておられるんですけど、なんせ1分ですからあらかじめ時間を調べておかないとなかなか見られない(笑)。でもどれもおもしろいんで、ぜひ時間をチェックしてご覧ください。
![]() Profile
前田真宏(まえだ まひろ)63年生まれ。アニメーション監督。東京造形大学在学時よりTV作品「超時空要塞マクロス」宮崎駿監督作品「風の谷のナウシカ」の原画を担当。卒業後は「天空の城 ラピュタ」の原画をはじめ、劇場用長編アニメーション「王立宇宙軍 オネアミスの翼」にメインスタッフとして参加。その後スタジオジブリ、GAINAXを経てを92年、有志とともにアニメーションスタジオGONZOを設立。98年、GONZOの出世作となったOVA作品「青の6号」で監督デビュー。その斬新な映像スタイルは業界内外で高い評価を得る。代表作に「ANIMATRIX The Second Renaissance 1&2」(03)、「巌窟王」(04)などがある。現在は2008年公開の短編オムニバスアニメーション「Genius Party」の第2弾を制作中。 前田真宏オフィシャルブログ「INUBOE」 ![]() © Syd Mead Inc. All Rights Reserved
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