ガンダム? 見てません
――――鵜之澤さんが、アニメに関わられたきっかけは?
鵜之澤 僕がバンダイに入社して、ホビー部に配属になった頃(1981年)、折からのガンプラブームが巻き起こってたわけです。もう、右も左もガンダム。これが、アニメというモノに関わった最初かも知れないなぁ。
ちなみに僕は、当時はもちろん、現在に至るまで、ほとんど『ガンダム』って見たことないですから。たしかに劇場版3本は、公開時にあくまで仕事として見てたけど、それ以外は本当に見てない。そのくせ今もゲームとかで『ガンダム』やってるんだけど(笑)。この件に関しては、いろんなところで、すでにカミングアウトしてますんで。むしろ、これこそ一般大衆の視点だ! って開き直ってます(笑)。
だからと言って、当時の僕は、決してアニメが嫌いというわけじゃなかったし、プラモデルの営業や宣伝の仕事は楽しかったですよ。川北紘一さんのCM撮影に参加させていただいたり、プラモデルの企画を出したり、入社1年目にして、富野由悠季さんの『ザブングル』(※1)の打ち合わせに出させてもらったりしてましたからね。作品の内容に関しては、あんまり口出しせず、プラモデルのネタになるロボットを出してほしい、と。あくまでスポンサーとして、言うことだけは言ってました。その後も『ダンバイン』(※2)『エルガイム』(※3)と立て続けに番組に関わらせていただけたのは貴重な体験でしたね。アニメの作られ方というものを、いろいろ見させてもらえましたからね。この時点で、映像圏内に少し首を突っ込んだということになるのかな。
――――渡辺さんの談話の中で、鵜之澤さんが81年当時、OVAを先駆けするような発想の社内懸賞論文を出されたと伺っているのですが。(第12回参照)
鵜之澤 ああ、ありましたねぇ。あの頃は、渡辺と一緒にメディアわんの土屋(新太郎)さんの勉強会などに参加してましたから、情報共有がある程度できてたんじゃないかな。
僕は、もともと音楽系が好きだったんですよ。音楽って、TVの音楽番組やライブ以外にも、オリジナルアルバムとか出したりするじゃないですか。このパッケージという発想は、そのままアニメにも使えないかな? と思ったんでしょうね。
当時も、そして今もほとんど同じなんですが、キャラクタービジネスって、放送を使って、消費者の方には無料で見ていただいている。それでファンになってもらえるような良い作品があれば、その関連商品が売れるという構図ですよね。極論で言えば、アニメはタダで見せても商売になる、という希有な例だと思うんです。
ただし、主体となるTV番組を成立させるには、それなりにハードルが高い。だったら、無理にTVにしなくても、ビデオでイイんじゃないの? という発想だったんです。極論500円でイイ、とにかく安くばらまいて、もうダビングされたってかまわない。それでファンが広がってくれて、それこそ100万人の人が見てくれて、関連商品が100万個売れてくれればイイじゃないか、ということをまとめたんじゃないかな。
――――OVAというよりは、現在のWeb配信に近い発想ですよね。
鵜之澤 そうかなぁ。でも、後にも先にも論文でお金もらったのは、あれぐらいですよ(笑)。
『うる星やつら』でアニメ修行
――――ホビー部を経て、エモーションレーベルへ電撃移籍(第12回参照)されるわけなのですが、当初はどんなお仕事をされていたんですか?
鵜之澤 渡辺が企画していたアニメや特撮の他に、細野晴臣さんのBGMが流れる環境ビデオ……今で言えば癒し系なんでしょうか? そういう新ジャンルがあって、そのへん渡辺は門外漢だから、面倒見てほしいってのがあったんでしょうね。自分は音楽が好きだから、面白かったし、それらを担当しながら、アニメのほうも手伝うというスタンスでしたね。
さっきから言ってますけど、『未来少年コナン』とかも知りませんでしたから。だから、新鮮でしたよ。ああ、アニメって、こんなに面白いんだ、と(笑)。
唯一、例外は『うる星やつら』ですね。これは学生時代からコミックも読んでいたんで、アニメの勉強も兼ねて、かなり一生懸命見てましたね。
自分の目で見て気に入った作品や、人気の高い作品があると、当時、スタジオぴえろ(現・ぴえろ)さんとは、お付き合いがあったんで、シナリオや絵コンテを見せてもらって、ああ、こういう段階を経て、フィルムに仕上がっていくのか、と。その中で、よく見るスタッフの名前が浮かび上がってくる。『うる星やつら』というのは、GAINAXとは、また違った系統の優秀なスタッフが集まってましたからね。実際に本人に会ってお話を聞いたりもしましたね。
――――その中から、未来の陣容が、鵜之澤さんの中でできあがっていったわけですね。
鵜之澤 陣容ってほどじゃないです。全部行き当たりばったり。ただ、営業職を経験していたこともあって、あちこち出歩いては、いろいろな方を紹介していただくのが好きだったってこともあるんでしょうね。
で、その中で重要なエピソードがあるんですよ。勉強かたがたスタジオぴえろにお邪魔していた時って、トレーナーとGパンみたいな普段着でいたわけなんです。現場の皆さんと同じ格好のほうがいいかな、仲間に見えるかな、という考えもあったんじゃないかな。そうしたら、ある日、ぴえろの代表の布川(ゆうじ)さんに「君はここの連中とは違うんだから、ちゃんとした格好をしてきなさい」みたいなことをかなりビシッと言われたんですよ。細かいニュアンスはちょっと忘れたけれど、要するに、現場の人間は、基本的にフリーで、作品が売れなかったら食えなくなってしまう。自分の才能を信じて、日々を生きているクリエイターなわけです。僕は基本的にサラリーマンで、クライアント側の人間なんだから、その辺は分けて欲しいということなんだな。少なくとも僕は、そう解釈しました。
「えー!? 違うんだ、仲間じゃないんだ」って、最初はちょっと落ち込んだりもしたんだけれど、すぐに切り替えました。パッと諦めました。自分はクリエイターじゃないし、そんな才能も無い。けれども、自分が惚れた才能ある連中のために、予算集めてきて、その夢を実現させて、しっかり儲けて、また、連中と組んで仕事をする、ということはできる。こういう役割なんだ。それがプロデューサーなんだ、とね。
そんな自分の立ち位置を教えてくれた布川さんは、今でも尊敬しているし、感謝していますよ。本人は憶えてないらしいけど(笑)。
鵜之澤 伸(うのざわ・しん)
1957年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。81年に(株)バンダイ入社後、ホビー事業部に配属。「ガンプラ」の営業、営業企画を担当する。83年に同・フロンティア事業部へ異動し、数々の映画、TVアニメのプロデュースを行う。92年にバンダイビジュアル(株)取締役、95年に(株)バンダイ・デジタル・エンタテインメント取締役を経て、98年に再び(株)バンダイ入社。その後、映像ソフトからビデオゲームの世界へと活躍の場を移す。主なプロデュース作品に『機動警察パトレイバー』(OVA・TVアニメ・劇場アニメ)、『ジャイアント・ロボ THE ANIMATION〜地球が静止する日』(OVA)、『.hack//』(TVアニメ・ゲーム)などがある。現在は(株)バンダイナムコゲームス代表取締役副社長兼コンテンツ制作本部長。
※1 ザブングル
『戦闘メカ ザブングル』1982年放映。『ガンダム』『イデオン』に続く富野監督作品。西部劇テイストとコミカルな演出で前2作のイメージを払拭した。
※2 ダンバイン
『聖戦士ダンバイン』1983年放映。ファンタジー世界にロボットを登場させた意欲作。RPG『ドラゴンクエスト』発売が1986年ということを考えても、早過ぎた傑作と言える。
※3 エルガイム
『重戦機エルガイム』1984年放映。その世界観設定の多くを当時新鋭の永野護氏が担当。後の『ファイブスター物語』の原点とも言える。
暴走したからこそできた『パトレイバー』
――――作品の調査研究、そして精神修行を経て、実際にご自身も数多くの作品を手がけられるわけですね。
鵜之澤 それ以前から、数本担当はしてたんだけれど、渡辺が『王立宇宙軍』に掛かりきりになっちゃってからは、本格的に自分で転がして行かなきゃならん、という状況に追い込まれましたよ。
――――初期の作品ですと、『破邪大星 ダンガイオー』(※4)『グッドモーニング アルテア』(※5)『レリック・アーマー レガシアム』(※6)がありますね。
鵜之澤 ロボット三部作みたいなパッケージで企画したんじゃないかな。なぜロボットかというと、これはホビー部にいた経験ですね。先ほども言いましたけど、映像を見てもらうだけじゃ商売にならない。ファンが作品を気に入って、さらに商品まで買ってくれるというジャンルで最も成功しているのはロボットものだったと思うんですよ。存在感というか、質感というか、持っていたい、集めたいという欲求が湧いてくる。事実、『ガンダム』は25年以上も経っているのに、今もバンダイのメイン商品ですよ。さらに僕は、その後の『ザブングル』や『ダンバイン』という「ポストガンダム」的な作品に関わってましたからね。あの一連は、プラモデルの売れ行きも手堅かったし、番組としても成立していたわけです。だから自分らもああいうチャレンジをしてみたいという気持ちがあったのかもしれませんね。
事実、当時のクリエイターは、年齢も近かったし、同じようなチャンスを求めていたし、その点では違和感なくやれたのかもしれませんね。
当時のバンダイというのは採算さえ取れてれば、何でもやらせてくれた、ある意味アバウトな社風だったというのも幸いしてたんじゃないかな。他社だって、気づいていたかもしれないし、やりたかったかもしれないけれど、自分たちは、どこよりも妙にフットワークが良かった。まぁ、やったもん勝ちですね。これは、その後の『パトレイバー』にも言えることなんですが。
――――その『機動警察パトレイバー』ですが、1988年の発売から今年で20年になりますね。当時のお話をお聞かせください。

©1989HEADGEAR / BANDAI VISUAL / TFC
鵜之澤 もう発売20年ですか……。企画自体はもう少し前だから……長いなぁ。
すでに語り尽くされてますけど、伊藤和典さんの家でやった1986年のクリスマスパーティーで、ゆうきまさみさんや出渕裕さんから企画書を見せられた時が最初です。
まず、何と言ってもストーリーが良かった。あと、やっぱりロボットです。しかもパトカー。コレは子供にもウケる! 定番のプラモデルも出せる! 当時は、すぐにTVシリーズに出来ると本気で思っちゃいました。で、古巣のホビー部に持っていくと、一度出て行った者には冷たいところなので、一笑に付されてしまいました。「おめぇの企画なんかに、誰が金出すか」って(笑)。
スポンサーが付かないんだったら、OVAだ! と1シリーズやったところ、当たるべくして当たったわけです。
今度こそTVだ! と思ったらヘッドギア(※7)の皆さんは、「映画を作るんだ」って仰るわけで……。向こうは5人で、こちらは1人だから勝ち目はありません(笑)。卑怯だぞ、最初はTVって言ってたじゃねぇか!? おお、やってやるよ! 劇場映画!(笑)
と言うよりも、やれる時にやんないと、走り出した機関車を止めてしまったら、もう絶対に動けなくなっちゃうという危機感のほうが強かった。だからもう走るしかない。まさに暴走プロデューサーですよ。
その後(1989年)、ようやくTVシリーズにこぎ着けるんですが、結局、日本テレビの水曜17時枠しか取れなくて、製作費がまともに出ない状態だった。当時は普通1話作るのに1000万円かかったんですよ。それが250万円しかない!? 1話作る度に750万円の赤字!? 普通なら、もうこの時点でギブアップですよ。でも、こっちは、TVシリーズも、OVAの流れの一環という考えがあるし、当然、TV終了後にビデオリリースする覚悟もあるんで、むしろ、250万円の予算が他から出て、OVAが1話、750万円で作れるじゃん、と考えるわけです。詭弁とも無茶とも言えるんだけど、今ならビデオメーカーが普通にやってるDVDパッケージを売るためにテレビ枠を取る、という方式の走りだったんじゃないかな、と。
さらに、TV版3話に新作OVA1話を付けるというパッケージ(※8)にしたんで、訴求力はアップしたかもしれないけれど、さらに製作費が新作十数本分上がるわけですよ。
総額10億円くらいのプロジェクトを30歳そこそこの若造が決めてたワケです。アバウトに。いやいや、計算もしてたし、勝算ももちろんありましたよ(笑)。
――――さらに、コミックや小説、ゲームも同時進行で、『パトレイバー』は、いわゆるメディアミックス展開のお手本のような作品でしたよね。
鵜之澤 おそらくバンダイ1社でやってたら、『パトレイバー』は、あそこまでいけなかったんじゃないかな。
裏を返せば、お恥ずかしい話、バンダイ内部だけじゃ、十分な予算が捻出できなかったんです。それで、東北新社やワーナー・パイオニア(現・ワーナーミュージック・ジャパン)などに共同出資を募ったわけです。将来的にヒットした場合、取り分が減るわけなんですが、こうしたパートナーとの出会いが、逆に新しい展開を生んだわけです。
良い例としては、「週刊少年サンデー」(小学館)のゆうきまさみさんの連載がありますね。『パトレイバー』の原案でもあるゆうきさんに、10回でいいですから、OVA発売直前だけでいいですからと、タイアップ的に執筆を頼んだんです。ゆうきさんはもちろん、当時の編集部のみなさんも快く応じてくださった。その後、タイアップ期間が過ぎても、連載自体も好評で、結局コミックの連載が一番最後(〜1994年)まで続きましたからね。
ひとつの作品がこんなに短期間で様々なメディアを生み出せたというのは、良いビジネスパートナーに巡り会えたからじゃないかと思いますよ。それに何よりもヘッドギアの面々の豊富な創造力に尽きるんじゃないかな。ホントに。
※4 破邪大星 ダンガイオー
1987年作品。リアルロボット全盛時に、あえて70年代スーパーロボットテイストで挑んだ野心作。監督・原案・キャラクターデザインは平野俊弘。
※5 グッドモーニング アルテア
1987年作品。高度な科学力を魔法の域にまで発達させた異星人・紋章族と彼らに支配された人類。超未来の宇宙を舞台に紋章族の少女アルテアと自動兵器オートマンとの壮絶な戦いを描くSFアクション。
※6 レリック・アーマー レガシアム
1987年作品。人類がユートピアを目指した入植惑星。だが、そこには大いなる謎が。原案・監督・キャラクターデザイン・作画監督、一人四役に北爪宏幸氏が挑んだ意欲作。
DVD「機動警察パトレイバー劇場版」
価格:6,090円(税込)
販売元:バンダイビジュアル(株)
※7 ヘッドギア
『機動警察パトレイバー』のために集まったプロジェクトチーム。ゆうきまさみ(原案・コミック)、出渕裕(メカニックデザイン)、伊藤和典(脚本)、高田明美(キャラクターデザイン)、押井守(監督)の5人。
※8 TV版3話に新作OVA1話を付けるというパッケージ
当時「Pシリーズ」と呼ばれ7800円で発売。TV版はBGM、SEを劇場版と同仕様で新録音。他に新OVAのみのSシリーズ(4800円)も発売された。全16巻。