第13回 「家を建てる」喜び
『草原の少女ローラ』の記憶
イラスト/KEI-CO
山形浩生の『山形道場』(イースト・プレス)に「Hackについて」という一文が収められていて、そこにこんなくだりがある。
「『大草原の小さな家』シリーズを読んだ人なら、ローラ・インガルス・ワイルダーのお父さんが家そのものも家具も、いつもすごくラフにいろんなものをつくって、そのときそのときで柔軟に工夫しつつ一家を喜ばせ、見事に生活していたのが印象に残っていると思う。かれなら自分の家を指して、照れながら言っただろう。『I just hacked up.』 いやあ、サクッと家を造ったよ、パパッと家具を組み立てたよ、という雰囲気。」
ラフでも自分のほしいものをパパッと作ってしまうHackの精神と、そのルーツについて綴った本題も興味深かったけれど、強い印象を残したのはむしろ細部。「かれなら自分の家を指して、照れながら言っただろう。『I just hacked up.』」というくだり。
というのもこの部分を読んで、昔、一度見だけの『草原の少女ローラ』(75)の一場面をまざまざと思い出したからだ。
タイトルからもわかるとおり『草原の少女ローラ』は、ローラ・インガルス・ワイルダーの『大草原の小さな家』シリーズを原作とするTVアニメ。このアニメの中に、まさにローラの父が友人と協力して家を作るシーンが出てくるのだ。
丸太を用意した二人はまず斧か何かで、両端のあたりを丸くくぼむように削るのだ。そして、その丸い窪みを利用して、丸太を組み合わせ、家の壁を組み上げていく。
ネット上でサブタイトルを確認してみると、第19話の「早くつくって!新しい家」がどうも記憶にあるエピソードのようだ。確かに家はあっという間に出来上がった。朝から作業が始まり、夕方には、床もなく屋根は骨組みだけという有様だったはずだが、それでも家らしきものは出来上がっていた。自分の手で、しかも1日の作業で家ができてしまう、という内容は子供心にものすごく驚いた。
ほかの内容はほとんど覚えていない――覚えているのは、お父さんのチャールズがドラマや原作の挿絵と違いずいぶんとソフトな雰囲気だったことぐらい――にもかかわらず、この家を建てるエピソードだけ鮮烈に覚えている。ということは、きっとそこに山形浩生がいうところの「Hack」の精神を感じ取り、それが魅力的に見えたからなんじゃないだろうか。家のような大きなものですら自分でDIYできてしまう。
家を作る喜び。そこには「住む喜び」のもっとも根源的な部分が潜んでいるんではないだろうか。
「子供の家」と「大人の家」
自分で家を作る喜び――とくればいくつかのアニメがぱっと浮かぶ。たとえば『未来少年コナン』(78)でコナンたちがハイハーバーで自分たちの家を造ろうとしていたし、『超時空要塞マクロス』(82)では、閉鎖ブロックに閉じこめられた一条輝とミンメイが、それこそ「Hack」精神を発揮し、そこいらにありあわせのもので家らしいものをでっち上げていた。
そんな中でやはり、強烈な印象を残しているといえば『火垂るの墓』(88)だろう。
太平洋戦争末期、14歳の清太と4歳の節子は、あずけられた親戚の家を飛び出し、池の畔の横穴壕で暮らし始める。
壕へ引っ越してきた日、節子が二つある壕の入口を覗きながら「ここがお台所」「こっちは玄関」と、“新居”の間取りを考える場面がある。「はばかりはどこにするのん」と清太に尋ねながらも、うれしさを抑えきれなない節子。この時の鼻歌を歌いながら体が動いてしまう節子の体には、やはり「家を構える喜び」が充満している。
こうして始まった清太と節子の生活は、まるでままごとのようだ。大人が「Hack」精神を発揮するのであれば、ありあわせのものでも生活をなりたたせることができるだろうが、14歳と4歳ではなんともならない。
こうしてみると、同じ「家を作る喜び」といっても、大人が作る家は生きていくための不可欠な拠点だが、子供が作る家はちょっと違う色彩を帯びていることに気付く。
子供の作る家の原型は、おそらく『ピーターパン』のネバーランドに出てくる、子供たちの地中の家にあるだろう。世の中から隔絶された「子宮」のような空間。そこには子供しかおらず「他人」は出入りすることがない。子供の作る家が、しばしば、地中や樹上といった地表から離れた場所に作られるのも、理由のないことではないだろう。そんな「子供の家」は外からの力でふいに終わりを告げる。
コナンとジムシィの小屋は、二人と対立する青年オーロたちの手で焼かれるが、それと同時にハイハーバーを襲うためのガンボートが現れるのは偶然ではない。輝とミンメイの共同生活は、敵の不発弾が開けた穴であっさりと終わりとなる。
逆にいうと、清太と節の生活の悲劇的終わりは、食料の調達の困難や終戦など外の力が「子供の家」の扉をしてもこじ開けようとしても、彼らがあの横穴壕から出ようとしなかったことが最大の理由ではないか。
「子供の家」を追い出された子供たちはその後、どうなるのか。世間に放り出された子供たちは、成長して、また自分の家を建てようと試みるのである。今度は大人として。ローラの父のように。
(2007/12/21)