渡辺由美子の乙女はつらいよ

第13回 私が夢見る乙女小道具

女子は“ちょっと頑張らないと
手に入らない乙女小物“が大好き!
イラスト/こじま あや

先日、バレンタインデーが終わりました。いやー、あれは年々、“女子自身”がメインのスペシャルイベントになってますね。海外の有名ブランドが期間限定で出してくる宝石のようなチョコレートたち……男子の皆さん、知ってますか。あれすんごい高いんですよ。普通のトリュフチョコでも一粒300〜400円! 今年は一粒で1500円なんてのも出てました。もらった人は心して食すように。

チョコがお高くても、売り場には女性たちが列をなしてます。10代の女の子から品の良い年配のご婦人までお友達と並んでいたりして、みんな楽しそう! 
ま、誰のために買っているかといえば、結構皆さん「自分のため」だったりするんですけどね(笑)。

昨年、夫から「ブランドに詳しくない男にとって、バレンタインのチョコはとにかく大きさ! 大きさが愛情の量だから。高い小さなトリュフ二粒だったら、安くてもデカいチョコがいいに決まってる」と聞いて衝撃を受けました。
そうか。あの“宝石”の価値は、男子にはあんまり伝わっていなかったんだね(泣)。いいよ、そういうチョコは女子同士で友チョコとして贈るから。

最近のチョコは高くなりすぎだなあと思いつつ、私も含めた女子たちが毎年お菓子業界の術中にハマってしまうのは、“ちょっと頑張らないと手に入らない乙女小物”が大好きだから! ふだん買えるものとは、夢見度が違うんですよ!
ちょっと頑張らないと手に入らないものは、ちょっと頑張って手に入れた時の喜びがとても大きいものだということなんです。

前振りが長くなりましたが、今回は「アニメの乙女小道具」です。
ちょっと前に驚いたのが、『キミキス pure rouge』の第二オープニングの冒頭でした。“摩央ねえちゃん”が両サイドの髪を指でくるくるっと回してクセをつけているのですが、これは私も最近、美容院で教わったばかりのテクです。
そのあと鏡に向かってリップを塗るんですが、口紅のようなスティックタイプの高級リップで、唇のタッチも今流行の“つやつやグロス”なのですよ! 流行をリアルタイムに反映しているんですね。

そして机には、外国の高級化粧品が。これが女子にとっての“ちょっと頑張らないと手に入らない乙女小物”なのですよ〜!
一番手前にシャ○ル風のフレグランスなどもあって、女子高生なのにお高いなあと思ったら、夫によると「摩央ねえちゃんはフランス帰りだから」とのことで納得(笑)。
コスメの置き方もちゃんと、今使ってますよというような自然さなんですよ。芸が細かい! 
このシーンの小道具はどのスタッフさんの手によるものかわからないのですが、素晴らしい仕事だったと思いました。


時代と流行を読んだスタッフにより
進化していったアニメの乙女小道具

私がこんなに大騒ぎしているのは、……昔のアニメでは、乙女アイテムの忠実な再現というのは少なかったんですよ。CGがない昔にはアニメは手作業で作られていて、小物まで凝ることが難しかったからだと思います。

80年代後半には「メカと美少女」アニメがどんと増えましたが、私の印象では、「メカ」はリアルになったのに、「美少女」の小道具はあんまり……ネイルを塗る前にはベースコート塗ろうよとか、塗ってからすぐにバッグを持っちゃダメー! とか、ドキドキハラハラすることがいっぱいあったんですよ!(苦笑) 

それでも、アニメスタッフの方は勉強熱心で、表現はどんどん進化していきました。
私が声優雑誌のカラーグラビアを担当していた頃、女性声優さんの撮影現場に美樹本晴彦さんが見学に来られた時がありました。
一ヶ月後、『アニメージュ』の表紙イラストを見てびっくり。『マクロス7』(94年)の歌手のヒロイン、ミレーヌのメイク風景として再現されているではありませんか。ヘアメイクさんの手の動作や広げられた道具もリアルで、“アイドル歌手のメイクってこうなんだ!”と想像できる夢いっぱい のイラストに仕上がっていたのでした。あの時はうれしかったですね。

新しいものをどんどん取り入れていく気風が、アニメにはあると思います。

『キャッツ・アイ』(83年)のエンディングは、当時女性たちの間で大流行していたエアロビクスを取り入れていて、ダンスミュージックに合わせてレオタード姿の来生姉妹が踊るというもので、世間的にも広く話題となりました。月曜日のゴールデン枠で、大人の女性の鑑賞も視野に入れた試みは斬新で、新しい時代が来たんだなーと心躍りました。

個人的にとても心に残っているのが、劇場版『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(88年)のエンディング。映画のラストに魔美ちゃんが、なんとチェック柄のプリーツスカートで登場したんです! お若い方、セル画時代にアニメキャラにチェック柄を着せるのがどんなに大変だったかおわかりになりますか!? 

どうやって動かすんだろう、まさかチェック模様を全部線で起こすのかしら……と、ハラハラしながら見守っていたら、柄はそのままで服だけ動くという作りになっていました。柄をテクスチャー的に貼り込むのは、今の『巌窟王』に通じる手法ですね。でもセル画時代にあれをやるのは、手法の考案も含めて相当すごいことだったと思います。


「新しい」だけじゃない
大切な乙女小道具の役割

「新しい」とか「流行の」とか、「オシャレ」がそんなに意味あることなのか? そうお思いの方もいらっしゃるかもしれません。私自身も、現実に流行している乙女小道具がアニメに登場すると、どうしてこんなに嬉しいのかわかりませんでした。

少しわかったのは『みなみけ』(第一作目)を観ていた時です。“ハルカ姉さま”が作っていたシチューのお鍋が、「ル・クルーゼ」のオレンジカラーと雰囲気が似ていたんですね。もちろんアニメはフィクションですから実物とは違います。でも、日本の女の子たちの間で流行っているキッチンアイテムと似たものがみなみ家でも使われていると連想できたことで、三姉妹を身近に感じ、親近感がわいたのでした。

女の子が“ちょっと頑張って”そろえるキッチンアイテム。今はそれがル・クルーゼのお鍋なんですね。そして、このオレンジ色の鍋を通して、みなみ家の三姉妹が日々の生活をせいいっぱい素敵に過ごそうと思っていることが伝わってくるんです。まさに、“日常の中にキラキラがある”物語になっているんですね。

生活描写にリアリティを持たせるにはいろんな表現があって、誰もが持っている生活用品を克明に描いて生活感を出すという方法もあります。
一方で、現実に存在しても、ちょっと背伸びしないと手が届かないアイテムを描く手法もあるのだと思います。そうすることで、アニメを観ている女性たちに、夢とキャラクターへの親近感の両方を与えることができるのです。

アニメの乙女小道具は、現実の女性とフィクションを結びつける「よりしろ」なのかもしれません。

(2008/02/21)


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