![]() 拾弐の巻 常連失われた楽園への未練をいまだ断ち切れないときにはどうするか――前回は「果報は寝て待て」と書いた。そんなに悠長に待てない、マイペースさんの自滅や気まぐれを待つなんて負けたような感じでイヤだ、そう考える人もいるだろう。 さて、こうして更に色々と店を開拓していくと、マイペースさんどころではない、とんでもない人たちの存在に気がつく。「○○常連」と呼ばれるグループである。○○には地名が入る。高円寺常連、阿佐ヶ谷常連……まぁ、とくにどの場所の誰、という問題ではないのでここでは「○○常連」と呼ぶことにしよう。マイペースさんは単に場の空気が読めない一本調子な人なだけで、根はいい人が多い。寂しがり屋だったり、他人と騒いで悩みを払拭しようとする余り過剰な飲みになって迷惑をかける……この辺りは店的には迷惑ではあるが、人となりが見えている分「まぁ、しょうがねえな」で済まされる。○○常連な人たちは新しい店が出来ると、まずはフラッと気のよさそうな感じで入ってくる。ここで店主を見定め、与しやすしと見ると店のアレコレにいちいち文句をつけてくる。その文句もいちいち大仰なものではなく、微妙にチクッとくるものだ。 「なんだ、煮込みは塩味じゃないの?」 端で聞いていると大したことは言っていないし、経験の浅い店主に熟練の飲み人が親切にアドバイスをしているようにも聞こえる。人の良い店主ならば「ありがとうございます」とばかりに殊勝に耳を傾ける。 「これが○○の飲み方なんだよ」 この辺りでようやく店主は客層が変わってしまったことに気がつく。それこそ酒一杯で何時間も粘るしゃべる騒ぐ……そんな客ばかりで店主自慢の料理などほとんど食べない。挙げ句に乾き物を増やせとか、もっと安い酒を置けとどんどん理不尽な要求をしてくる。ここで勇気をふるって○○常連を叩き出すことが出来ればよいのだが、大概は訳が分からないまま売り上げも上がらないままジ・エンドである。そして常連達は別の店のカウンターで笑い合う。 「やっぱり二ヶ月でダメだったな」 いやいや、明らかにあんたらのせいだって。 しかし、そういう○○常連たちをいなしながら、自分のやりたいことが出来る人が店を何年も続けられるわけなので、確かに高円寺で店をやるのは難しい。それだけにあえて店を開きたいというチャレンジャーが多いのもまた事実。出禁の店を増やしながらも○○常連がいまだに暗躍出来るのは、そうした挑戦が数多く繰り返されているからだ。それも一つの活気の表れとも言えるかもしれないがあまり良いものではない。 (2008/4/2)
![]()
|