| 2006年11月4日深夜から5日早朝にかけ、テアトル新宿で『リーンの翼』全話完成&総監督・富野由悠季氏の誕生日を記念して、オールナイトイベントが開催された。 イベントのプログラムとしては、『リーンの翼』全6話上映、『聖戦士ダンバイン』第1話、第16話の上映などがあったが、ここでは上映に先立って行われたトークショーの模様をレポートする。 『リーンの翼』とは、1983〜84年にTV放映された『聖戦士ダンバイン』や同名の小説などに登場した異世界・バイストン・ウェルを舞台にした物語の最新作。本作は、同名小説のパラレルな続編にあたる。 地上世界の少年エイサップ・鈴木と、海と大地の狭間にある異世界バイストン・ウェルにある一国、ホウジョウの王女リュクス・サコミズの恋と冒険、そしてホウジョウ国王サコミズ・シンジロウの信念を貫く姿を描いている。 人間の生命力「オーラ力」で動くマシン、オーラバトラーを筆頭としたさまざまなアクションはもちろん、声優陣の迫真の演技によって生み出された、人間たちの息詰まるドラマも大きな魅力の作品だ。 会場に満員のファンを集めたこのイベントは、ゲストに、富野由悠季監督、エイサップ役・福山潤さん、リュクス役・嶋村侑さんの3人を迎え、アニメ評論家・藤津亮太さんの司会で行われた。 まずは富野監督から、本作を作り終えての感想。 監督は、時折目をつむり、一つ一つの言葉を選びながら、「こういった仕事をやる上で、重要なこと」と断った上で、ずいぶん前のことなので、大きな反省点だけ残してそのほかのことは意識的に忘れている、と語った。 そのため、これ以降も監督の言葉は、自身の中にある「大きな反省点」を中心に展開される。 この“大きな反省点”とは、「『ダンバイン』以降、改めてバイストン・ウェルものを作る際、自分の中に明確なモチベーションがなかったため、制作する中でバイストン・ウェルものではなく、敵キャラクターであるサコミズものになってしまった」ことであった。 「冷静であれば、エイサップとリュクスの物語になったんですが、第2話でサコミズにオウカオー(サコミズのオーラバトラー)の前でしゃべらせた途端、自分の気持ちがドーンとサコミズに行ってしまったんです」(富野) アフレコ現場で一緒だった福山さんも、「サコミズ役の小山力也さんのお声を初めてお聞きしたときは、『俺はこれから、これに太刀打ちしなければならないのか』と思うぐらい、たいへん力のあるものを見せつけられました」と、その存在感の大きさを認めた。 福山さんの言葉は淀みなく、その都度、監督の顔を確認しながら続く。 「ただ、それに負けてはいられないので、自分もできる限りやるしかないと、腹をくくったといいますか……。ですが、物語が進むにつれて『勝てないまでも、なんとかしたい』と、自分が追い込まれたところがあります」(福山) それからここで、福山さんが本作、というより富野作品に掛ける意気込みが、『∀ガンダム』終了から始まっていたことが明らかになった。 「7年前に、『∀ガンダム』のキース・レジェ役をやらせていただいたときの僕は、右も左もわからないぺーぺーでして。現場では、他の声優さん方が監督とディスカッションしながらやっているのを横目に、ただただ自分のことで精一杯でした。ですから、終わった後にすごくもったいなかったという感覚が強かったんですよ。そのころは、このあと10年かかってもいいから、もう一度、富野監督とお仕事できたら、と思っていました。そして、5年目ぐらいにこの作品のオーディションのお話をいただき、それからはもうほぼそのことしか考えられない状態になりましたね。自分の中で、『これを逃したら、俺は死ぬまで後悔する』ってくらい追い込んで。役が決まったときは、喜びの雄叫びを抑えたのを、今でもはっきりと憶えています」(福山) そして、念願のエイサップを演じきった今の心境については、こう語ってくれた。 「始まる前は、このまま燃え尽きてもいいと思っていたんですけど、演じるにつれて自分の中で、やりきった! 満足だ! じゃなくて、まだまだやりたいとか、もっとこういうふうにしたいとか、この役に対する欲がどんどん出てきたんです。最終回の収録を終わったときも、『もう1回、録り直しませんか』と言いたくなるぐらい終わるのが残念でした。それほど、僕にとって想いの強い作品です」(福山) 「もっとやりたかった」点については、この先、嶋村さんも異口同音に語る――そして、この時点ではわからなかったが、富野監督はこの状況を、自身の問題として捉えていた。それは、監督の最後のコメントで明らかになる。 話し手は次に、本作が声優デビューの嶋村さんに移る。 嶋村さんは、リュクスを初めて見たとき、「落ち着いた表情の凛とした女の子」と感じ、第1話のアフレコ現場の感想を、「怒濤という感じでした。みんながテンションを上げて戦っている感じで、終わってみるとすごくたいへんだったとわかったんですけど、やっているときはすごく楽しかった」と、ハキハキとした口調で答えた。 福山さんとの共演については、自分自身いっぱいいっぱいで、当時の記憶がほとんどないと振り返る。 しかし嶋村さんがそうなったのは、外的要因が大きいと富野監督の解説が加わった。 「憶えてないのは本当だと思いますよ。あの状況で初心者が憶えてやっていられたら、それはおかしい。それくらいのプレッシャーをかけていましたし、そうすることで──こういう言い方をするとホント失礼なんだけども──芝居を引き出すというのを仕掛けました。演技論的理屈で入っていくと、おそらくわからなくなってくる、というのが第1話でしたから」(富野) そんな“怒濤”を体験し、すべてを終えた嶋村さんは、今このように感じている。 「なんとか終わって良かったなあ、と思うんですけど、終わってすごく寂しかったですね。もっとリュクスと、それからエイサップやお父さん(サコミズ)と一緒にいたかったし……。自分の演技については、確かに思い残すこともありますけど、その時々で今しか出せないものが出せたと思っています。そういう意味で、すごくありがたい、そしてステキな現場でした」(嶋村) リュクスを生み出した富野監督は、そのキャラクター像と嶋村さんについては、次のように語った。 「ここ数年現れている、アニメの中の美少女キャラクターのパターンにはまらないものを作りたいと思い、作りました。ただ、その意識が強すぎたので、作画的な演技面がちょっとトゲトゲしくなってしまったんです。そこを、嶋村さんに救ってもらった実感があります。これはホントお世辞ではなくて、嶋村さんは初心者なのによくやってくれたと思っています」(富野) その後、福山さん、嶋村さんのお気に入りのシーンの話題を経て、最後にお2人のアフレコ時の苦労話となった。お2人とも、ものすごいプレッシャーの中で演じていたことを改めて話し、それに対する富野監督の以下の言葉でトークショーを締めくくられた――ここで前述の、主役の2人が「もっとやりたかった」ことについて、監督の見解も併せて語られることとなる。 「芝居を作る、キャラクターを作る、演技をするというのは、基本的に緊張の中で出来上がるものだと思っています。特にアニメの場合には、台本を持って演じることが許されていて、個々に録音することもある環境なので、むしろこれぐらいプレッシャーをかけてちょうどいいんじゃないかな、と思っています。ですから、このことに関しては全然反省していませんし、声優さんたちに、もうちょっとやってくれ、という部分があります。ただ、この『もうちょっとやってくれ』っていうのは、本来、劇そのものが緊張ある構成になっていれば、声優さんたちも自動的にそうなるはずなんです。お二方に、食い足りない、そして全部録り直したいといという欲求不満に陥らせてしまったのも、こちら側がそういった劇構成にしてしまった、ということだと思っています。ですから、そういう意味で僕にとってこの『リーンの翼』というのは、この歳にしてまた改めて自分がやらなくちゃいけないことがよくわかった作品となりました。こういう機会を与えていただいて、観てくださる皆さんに本当に感謝いたします」(富野) できることなら、今度はリュクスを中心とした『リーンの翼』を、劇場版として作りたいと語った富野監督。 3人の「もう一度やりたい」想いが詰まった映画も、ぜひ観てみたい。 そして今回の『リーンの翼』は、三人三様の真摯な想いがわかった今、観る者に新たな興味と感動を与えてくれる作品となった。 【イベントログ】開催日時:2006年11月4日24時〜5日5時30分場所:テアトル新宿(東京) 〔プログラム〕 ・トークショー(富野由悠季、福山潤、嶋村侑、藤津亮太〈司会〉) ・プレゼント抽選会 ・『リーンの翼』全6話上映 ・『聖戦士ダンバイン』第1話、第16話上映 関連サイト『リーンの翼』公式ホームページDVD情報
映像配信
|
|