僕ら貧乏な村の子供は、せいぜい、馬車に乗りながら、自動車の乗り心地を想像するしかなかったんだ。この親方とかいうおじさんの車は、あの時見た金ぴかの車じゃないけれど、でもついに僕は車に乗ることができる! 知ってるぞ。自動車は、馬に引っぱってもらわなくても走ることができるんだ。エンジンっていう仕掛けがついてるからね。
「しっかり捕まるんじゃぞ! 振り落とされんようにな!」
親方は、そう言って、車を発進させた。僕は耳を澄ませた。エンジンの音が、「ぶううん」と聞こえてくるはずだ。……と思ったんだけど、聞こえてきたのは、キコキコキコキコという、耳障りな音だけだった。見ると、親方が、運転席の下の自転車みたいなペダルを、もの凄い勢いで漕いでいた。でこぼこ道なので、車も座席も僕らも、ぼこんぼこんと揺れた。
「ねえ! 親方のおじさん! エンジンは?」
「エンジン? そんなモンあるか」
「そんなあ! エンジンのない自動車なんて、聞いたことないよ」
「なんじゃと? この小僧め」
親方は、不機嫌そうな声で、僕をにらんだ。にらんだと言っても、メガネみたいなのをかけているので、ちゃんと目が見えたわけじゃないんだけど。
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