TV DVD-BOXプロジェクト発進! 監修:西崎義展 発売:バンダイビジュアル 2008年2月22日発売予定

INTERVIEWS

#01 納谷悟朗

part 2

いかにキャラクターに合わせて演じるか、それが勝負です

──納谷さんは強い男を演じることが多いですね。沖田役はまさに強い男の集大成という感じがします。吹替でも『コンバット!』の軍人役(※9)とかありましたし。

納谷 ジョン・ウェイン(※10)とかチャールトン・ヘストン(※11)とかね。強くてでかい男の声を要求された覚えがずいぶんありますね。僕の声質がそういうキャラクターに合っていると思って、みなさんお使いになったんじゃないですかね。

──『モンティ・パイソン』のジョン・クリーズも最高でした。渋い納谷さんしか知らない人はぜひこちらも見ていただきたいですね。

あれはもう絶対日本語版のほうが面白いからね(笑)。

──納谷さんは「声優」という言葉はお嫌いで、声の仕事も役者の仕事の一環だとおっしゃっています。

納谷 僕は舞台の役を与えられたのと同じ感覚でやっていましたよ。違うのはお客さんが目の前にいないということだけです。とにかく声の仕事というのは絵が勝負なんです。アニメで言えばキャラクター、吹替ならば演じている俳優にいかに合った芝居をするか、そのことしか考えてなかったですね。

──納谷さんの同世代の方で、声の仕事をやっていらっしゃる男優さんは、演技は変えていらっしゃるんですが、声自体をそんなに変えている印象はないですね。

納谷 ああ、そうですね。落語と同じじゃないですか。「女」を演じるときは、女っぽく喋るだけで、別に声色を変えるわけじゃない。もちろん声を高くするとか低くするとか、おどけて喋るとか。ニュアンスはその都度変えますけど、声自体は変えませんね。

──舞台での声の出し方と比べて、アニメは違いますか?

納谷 いや、舞台と同じですよ。発声としてはね。ただ、舞台の場合は目の前にお客さんがいるから、声はアフレコと比べて大きくなります。舞台をやると声に力がつきますからね。声の仕事をやる人は舞台発声をマスターしておいたほうが楽だと思いますよ。

──最近は舞台経験がなくて声優になる人が増えていますが。

納谷 舞台経験があったほうがいいですね。台本を読みこむ力がつくし、僕は新劇(※12)出身だったので、比較的声の仕事は楽にやれたんだと思います。

──しかし『ヤマト』はいわゆる「声優ブーム」のきっかけとなった作品でもありました。

納谷 ああ、そうでしたね。

──富山敬さんや麻上洋子さんの人気が出て、声の仕事をする人に光が当たってアイドル化する作品のはしりでもあったわけなんですが、そうした状況はどうお感じになりましたか。

納谷 確かにアフレコスタジオの外で、よくファンが出待ちをしていたのを覚えています。でも僕らはそのキャラクターの声をあてただけですからね。それがスターみたいな扱いをされるのは不思議でしょうがなかった。

──納谷さんご自身も脚光を浴びましたが。

納谷 僕個人は、納谷悟朗という人間が売れたんじゃなくて、僕が演じたキャラクターが評判になっただけだと思っていました。役者だから、与えられた役に応じていろんな演技をするのが仕事だと考えてやってましたからね。僕は自分を声優だと思ったことがない、というのはそういう気持ちがあるからです。

──いっぽうで納谷さんは「アテ師」という言葉はよくお使いになっていますね。

納谷 声の仕事というのは、とにかくマイナーな仕事でしたからね。ほかの役者はメーキャップして衣裳を着て舞台に立っているのに、僕等は密室で声だけ出しているという。まあそういう自虐的な意味も含めて「アテ師」と言ってました。けっして誇らしく使ってるんじゃないんだけど、でもそんなに嫌いな言葉じゃなかったですよ。

──「声優」とスマートに言い換えるよりまだマシという感じでしょうか。職人的な響きも感じられますしね。

納谷 僕はそれこそ「アテ師」としてやってきたわけです。

──納谷さんはナレーションの仕事も多くやっていらっしゃいますよね。

納谷 僕、ナレーションの仕事が大好きだったんですよ。もともとラジオが僕の出発点だったから、連続ドラマのナレーションには憧れてね。当時は矢島正明(※13)さんとか、勝田久(※14)さんといったうまい人がいっぱいいてね。あんな風に喋りたいなと思ってやっていた覚えがあります。

──『サインはV』(※15)のナレーションとか。

納谷 そうそう。あの作品のように、勢いのあるナレーションをよくやりましたね。その分、しっとりしたナレーションはあまりやらなかったかな。

──最近の声優さんや、ナレーションをしている人をどう思われますか。

納谷 そうですねえ。自分の声に酔っちゃう人が多いですね。特にナレーションの場合、聞く側は言ってる内容が気になるわけだから。

──ナレーションの場合は、あまり感情移入してはいけないものですよね。

納谷 映像を見て僕らは想像するわけだから、それを補足してくれればいいんですよ。でも映像と一緒になって盛り上がる人が多い。それを指摘するディレクターもミキサーもいなくなっている。

──『ヤマト』のときは一発録りだったと思いますが、今は別録もできる時代ですね。そういう時代というのは納谷さんにとってどんな感じなのでしょうか。

納谷 一言ずつ細切れに録ってもらえますね。楽でいいんですけど、本当は相手役がいたところで芝居しながら録りたいですよ。『ヤマト』にはそういうものがありましたからね。

──しかもベテランから新人までいて、緊張感もあったと思いますし。

納谷 いい頃だったんじゃないですかね。

──まさに納谷さんの全盛期に沖田を演じられたというのは、僕ら『ヤマト』ファンにとっても幸運だったと思います。そして40年近く経って、こうしてDVDになって発売されるわけですが、感慨のようなものはありますか。

納谷 今の若い人たちも見るんですよね。

──ええ。『ヤマト』はアニメファンなら絶対おさえておかなきゃいけない作品ですから(笑)。そういう若い人たちにどう見てもらいたいと思いますか。

納谷 そうですねえ…僕は戦争体験があるからね。子供のころは飛行機に乗って国のために死のうと思った世代ですから、『ヤマト』という作品は嫌いじゃないですよ。今は戦争を知らない人が大半ですから、若い人がどう感じるかはわからないけど、『ヤマト』を見て、平和の大切さを感じてもらえるといいと思いますね。

──ありがとうございます。今後の納谷さんのご予定を教えてください。

納谷 今年はテアトル・エコーの地方公演をまわることになっています。もちろん、声の仕事もやっていきますよ。

──今でも納谷さんが時々、声をあてていらっしゃるのを聞くと僕らはほっとします。

納谷 そうですか。嬉しいな。

──納谷さんの声を聞くと、僕ら、背筋がピンと伸びますし(笑)。本日はどうもありがとうございました。

 

 

※9 『コンバット!』の軍人役
アメリカ・ABCにて1962年から67年まで放映された軍隊ドラマの金字塔。現在NHK-BSで再放映中。日本でも吹替により放送され、ヴィック・モローが演じる主人公サンダース軍曹(声・田中信夫)の上官であるリック・ジェイソン演じるヘンリー少尉の声を納谷さんがあてていた。この二人の通信「チェックメイト・キングツー、こちらホワイトロック、どうぞ」が当時大変流行した。

※10 ジョン・ウェイン
1907年生まれのアメリカの俳優。西部劇の大スターとして『駅馬車』『黄色いリボン』『赤い河』などに主演する。愛称は「デューク」。ハリウッドきってのタカ派として知られた。79年没。吹替は小林昭二と納谷悟朗が多く担当。

※11 チャールトン・ヘストン
1924年生まれのアメリカの俳優。『十戒』『ベン・ハー』『猿の惑星』といった大作には欠かせない大スター。全米ライフル協会の会長を務めたこともあり、その様子はマイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』(テレビ東京版ではちゃんと納谷悟朗が担当)で映し出された。

※12 新劇
歌舞伎や能などの、日本古来の演劇とは対照的な、ヨーロッパ流の近代的な演劇のこと。明治時代末期にこうした劇団が誕生。文学座や俳優座などがその代表的な存在で、テアトル・エコーもその流れにある。

※13 矢島正明
1932年生まれ。矢島プロ所属。『鉄腕アトム』の初代ヒゲオヤジ役、『スタートレック』シリーズのカーク船長役、『ナポレオン・ソロ』他のロバート・ボーン、そして『逃亡者』『謎の円盤UFO』等、多くの外画番組でナレーションを担当。

※14 勝田久
1927年生まれ。NHK放送劇団の一員として、声優デビュー。『水滸伝』『少年探偵団』などの出演を経て、アニメにも進出。『鉄腕アトム』のお茶の水博士役が当たり役。外画では『大脱走』のドナルド・プレゼンスなど。

※15 『サインはV』
神保史郎、望月あきらの同名原作を実写ドラマ化。1969年10月から70年8月まで放映された。バレーボール実業団の女子チームのスポ根ドラマが人気を博し、高視聴率を記録した。納谷さんはナレーションの仕事も多く、アニメ『新造人間キャシャーン』やドラマ『アテンションプリーズ』などで印象深い仕事をしている。


イラスト:とり・みき

イラスト:とり・みき

PROFILE
納谷悟朗 (なや・ごろう)
1929年北海道生まれ。59年、劇団テアトル・エコーに所属し、『二番街の囚人』『サンシャイン・ボーイズ』など、多くの舞台に出演するかたわら、ジョン・ウェインやチャールトン・ヘストンといった男性的な俳優の吹替を担当する。アニメでも『宇宙戦艦ヤマト』の沖田十三を始め、『ルパン三世』の銭形警部、『風の谷のナウシカ』のユパなどの個性的なキャラクターを演じている。現在も舞台を中心に幅広いフィールドで活躍中。

 

INTERVIEWER
とり・みき
1958年熊本県生まれ。79年、少年チャンピオンでデビュー。『るんるんカンパニー』『クルクルくりん』などのポップでシュールなギャグ漫画や、『愛のさかあがり』などのレポート風エッセイ漫画、『山の音』などのシリアスSF系漫画、シュールな9コマ漫画集『遠くへいきたい』(河出書房新社)など多彩な作品を発表している。外画(洋画)の吹替にも造詣が深く、『とり・みきの映画吹替王』(洋泉社)などの著作がある。