TV DVD-BOXプロジェクト発進! 監修:西崎義展 発売:バンダイビジュアル 2008年2月22日発売予定

INTERVIEWS

#02 麻上洋子

part 2

振り返れば、原点にはやっぱり森雪がいるんです。

──最初に役がついたお仕事は『ゼロテスター』(※13)ですね。で、次が『ヤマト』の森雪。ヒロインですよね? どういう経緯で決まったんでしょう?

麻上 『ゼロテスター』のあと、オーディションがあるって聞いて、受けに行ったんです。

──そのとき選考をされたのは?

麻上 誰でしょうね(笑)? もちろん西崎プロデューサーや、音響の田代(※14)さんはいらっしゃったでしょうけど。

──決まったときはどうでした?

麻上 そりゃ嬉しいですよぉ。新人なんて、一作終わったらゼロじゃないですか、それがまたヒロインだもの、ラッキーでしたねぇ。ただあのころは、若くて鈴木弘子(※15)さんくらいかな? 30代、40代の人が娘役をやってる、そんな環境だったから。だからですよね。

──録音時に画は入ってましたか?

麻上 『ゼロテスター』は結構入ってました。『ヤマト』は……途中からかな(笑)。なくなったのは。

──そういうことで戸惑いは?

麻上 そりゃやりにくいですよ。でも『ゼロテスター』で1年、アニメの訓練をさせてもらえたから。そのとき一緒だったのが、神谷明(※16)さんと中尾隆聖(※17)さんで、とても仲がいいんです。わたしはふたりから見たらど素人で。それをチームだからって、一所懸命引き上げてくれたんですね。広川太一郎(※18)さんも、リーダーとしてわたしたち3人をよく食事に連れてってくれたり。

──『ヤマト』の現場はベテランぞろいでしたよね? 緊張したりは?

麻上 しましたねぇ。永井一郎(※19)さんがね、もう『ヤマト』から何年も経ってからおっしゃったんです。「洋子はいつも壁にへばりついてたな」って。そうなの。緊張して座れなかったの。動いたら音が出るし、そしたらNGになって、みんなの迷惑になるでしょ? 座ろうにも椅子がギシギシいうし。で、ずっと立ってたのね。邪魔にならないよう、壁際に。永井さんはそれ、見てらしたんですね。富山敬(※20)さんもとっても優しかったですよ。「洋子ちゃん、ここおいで」って、座らせてくれて。それでどれだけ助かったか。

──可愛がられたんですねぇ。

麻上 わたしは鈴木弘子さんより10年くらい後輩なんですけど、その10年間、女性の新人っていうのがほとんどいなかったんだもん、ずーっと。だから誰でも可愛がられたと思う(笑)。

──録音のあとは、よく先輩方と飲みに行ったりされたそうですね? 最近の若い方はあまり飲まないけど、昔はとにかくお酒好きな方が多くて。

麻上 それはね、芝居をやってる人たちだから。芝居のことを語るために飲むんですよ、みんな。語り明かしたいんです。でもわたしは、飲み会行ってもお金取られなかったですね。わたしのギャラなんて、交通費とお昼食べらたらスッカラカンだもん。取れないよねぇ(笑)。

──富山敬さんも朝から飲んでたりしたってうかがいました。

麻上 でも敬さんは、ちゃんとキレイにしてるの。徹夜明けでも。小林清志(※21)さんなんかはね、朝スタジオに行くと寝てるんですよ、スタジオのソファで。もういかにも、お風呂入ってないでしょって感じで(笑)。でもそれが、当時のわたしの憧れだったんですよ。なんかバンカラな感じがあって、優しくて。黒沢学校の同期の女の子に、「洋子ちゃんはどういう人が好き?」って訊かれて、「清志さんみたいな人」って言ったら、驚かれたけど。

──録音時の失敗談とかで、面白いエピソードはありますか?

麻上 あるときわたしが、「キャーッ」っていう悲鳴を、すごい裏返った声でやっちゃったことがあるんです。NGかなって思ったけど、録り直しはなくて。終わってから音響監督の田代さんが、お茶ご馳走してくださって、「今日は嬉しかったよ」って言うの。「あの恥ずかしい声をよく出してくれた」って。すごいピンポイントだなって思った(笑)。

──僕ら観てる側としては、『ヤマト』は「ちょっと他のアニメと違うぞ」っていう感じがありました。声をやってらっしゃる側は、どうだったんでしょう?

麻上 確かに話にもつながりがあって、いろんな大人のキャラクターがそれぞれ個性を持ってて。そういうのはなかったですよね。またずっと宇宙が舞台で。

──いきなり地球が滅亡する寸前からっていうのもビックリでした。そういうSF的な設定で、戸惑われたりはしませんでした?

麻上 んー、わたしたちは話の中で、どう芝居できるかってことしか頭になかったから。設定に対してどうとかは、あんまりないですね。

──最初の放映が終了したあとで、じわじわっとブームが高まっていきましたよね? そういう人気の上がり方は、どう感じてました?

麻上 嬉しかったですよ。多くの人に観てもらえて。

──声優さんへのインタビューとかも、『ヤマト』が走りだったと思いますけど。

麻上 わたしより20年も先にやってる納谷さんたちには、多分、「こんなこと初めてだ」って驚きはあったと思いますよ。でもわたしは最初だったから、以前との比較はあんまりないんですよ。

──キャラクターの人気なのか、自分の人気なのか、不安になったりはしませんでした? 

麻上 あっ、そりゃキャラクターの人気ですよ。

──でも麻上さん自身のファンも、そこで生まれましたよね?

麻上 それも、『ヤマト』の森雪がなかったらないことだし。たとえば『伝説巨神イデオン』(※22)で、富野由悠季(※23)さんがハルル・アジバ(※24)っていう、すごいコワモテの女性にキャスティングしてくださったけど、それも雪あってこそなんですよ。「森雪の人にハルルをやらせたい」って。振り返れば、原点にはやっぱり雪がいるんです。わたしは演技を広げる意味でも、いつも雪みたいな役ばかりふられるのは嫌だという思いがあったから、ハルル役は嬉しかったですね。でもそれからが七転八倒。自分の中にこういう怖い声を出せる資質があるのかって、すごく戦いました。それを全部見抜いてやらせた富野さんは、偉いなって思います。あの時代は、そういう才能のある人がワッといたのね。

──今でも若い才能のある方はいらっしゃるとは思うんです。ただ、少人数で集ってドカッと作ってた昔と違って、ものすごく仕事が細分化してるから……。

麻上 そう! だからさっきの「飲む」っていうこともね、意味があったんですよ。みんな、それこそ手塚先生(※25)のところで苦労して、食うや食わずで夢見て筆を動かしてた人たちが、また集まってきてたわけでしょ? 田代さんにしても湖川(※26)さんにしても。いいアニメを作りたいって。それ、すごい濃縮された「時」だったと思いますよ。そこに新人のわたしが出くわしたっていうのは、すごくラッキーなことですよね。

(part 3 につづく)

 

※13 『ゼロテスター』
『ヤマト』本放送の前年、1973年に放映された、東北新社・創映社(現・サンライズ)制作のSFアニメ。富野由悠季、安彦良和、高橋良輔など、のちにサンライズ・ロボットアニメの黄金期を支えた人材が、スタッフとしてこの作品にも参加していた。声の担当は、吹雪シン:神谷明、荒石ゴウ: 中尾隆聖、リサ:麻上洋子、ヤン:八代駿、ヒロシ:小原乃梨子、剣持キャプテン:広川太一郎

※14 田代敦巳
(#01 納谷悟朗 脚注3 参照)

※15 鈴木弘子
1944生まれ。アニメの代表作に、『サイボーグ009』の003(初代)、『アンデス少年ペペロの冒険』のペペロ役、『鉄人28号』(テレビ東京版)のナレーションなど。洋画の吹替えでは、ジャクリーン・ビセット、キャンディス・バーゲン、バーブラ・ストライザンド、シガニー・ウィーバーなど。

※16 神谷明
1948年生まれ。『ゼロテスター』では主役の吹雪シン、『ヤマト』では第13話以後、加藤三郎を演じた。『ゲッターロボ』の流竜馬、『北斗の拳』のケンシロウ、『キン肉マン』のキン肉マン、『シティハンター』の冴羽りょう、『名探偵コナン』の毛利小五郎など、代表作多数。吹替えではピアース・ブロスナンを担当。

※17 中尾隆聖
1953年生まれ。『ゼロテスター』当時の芸名は竹尾智晴だった。代表作は『アンパンマン』のばいきんまん、『楽しいムーミン一家』のスニフ、『ドラゴンボールZ』のフリーザなど。吹替えでは、『ツイン・ピークス』『新刑事コロンボ/だまされたコロンボ』のイアン・ブキャナンがはまり役。

※18 広川太一郎
1940年生まれ。『ヤマト』にも古代守役で出演。吹替えではロジャー・ムーア、トニー・カーティス、ジーン・ワイルダーなどが持ち役。本来は二枚目専門なのだが、コメディ作品では、自由な解釈で独特の語尾変化やギャグを織りこんだ、過激なアテレコを展開。マニアックなファンを持つ。

※19 永井一郎
1931年生まれ。『ヤマト』には徳川機関長と佐渡先生の二役でレギュラー出演、正反対のキャラを巧みに演じ分けた。『サザエさん』の波平さん、『機動戦士ガンダム』のナレーション、『未来少年コナン』のダイス船長、『風の谷のナウシカ』のミトじいなど、代表作は膨大。昔から老人役が多いため、非常な高齢と誤解されがちだが、米国ドラマ『ローハイド』の吹替えがきっかけで、じつは若いころから老け役を演じていたのである。

※20 富山敬
(#01 納谷悟朗 脚注7 参照)

※21 小林清志
1933年生まれ。元々は翻訳台本の仕事からこの世界に入った。吹替え洋画ファンには、ジェームズ・コバーン、リー・マーヴィンの声でお馴染み。アニメでは、なんといっても『ルパン三世』の次元大介役が代表作。CMやナレーションの仕事も多く、日本に住んでいてその声を聞かずに日常生活を送ることは困難である。

※22 『伝説巨神イデオン』
1980年に放映された、日本サンライズ(現・サンライズ)制作のロボットアニメ。同じ富野由悠季監督による『機動戦士ガンダム』の大ヒットを受けて映画化もされたが、哲学的で難解な内容だったこともあり、『ガンダム』ほどはヒットしなかった。が、本作こそは『ガンダム』以上に、富野監督の代表作と呼ぶにふさわしいと主張するファンも少なくない。

※NHK-BS「BSアニメ夜話」の『伝説巨神イデオン』の回に麻上さんがゲスト出演! 放映は3月19日(水)深夜24:00〜24:55の予定。

※23 富野由悠季
1941年生まれ。日本を代表するアニメ監督のひとり。かつては富野喜幸名義を用いていた。『機動戦士ガンダム』、『伝説巨神イデオン』、『聖戦士ダンバイン』など、代表作多数。西崎義展プロデュースによる『海のトリトン』も、富野監督の演出による。小説家としても多数の作品を発表、その代表作としては、『リーンの翼』、『オーラバトラー戦記』などがある。

※24 ハルル・アジバ
麻上さんが演じたハルルは、『イデオン』のヒロイン・カララ(声は戸田恵子が担当)の姉という役どころである。軍人の家系に生まれ、男勝りな女傑として育ったが、愛する男と結ばれて女としての幸福を手に入れた妹に嫉妬し、みずから妹を殺害する。そんな業の深いキャラを、麻上さんは見事に熱演した。

※25 手塚治虫
1928年生まれ。1989年没。日本ストーリーマンガの先駆者だが、アニメ史に残した足跡も絶大で、彼の設立した虫プロは、のちのテレビアニメ制作のフォーマットを築いた。が、採算を度外視した経営で同社は倒産。アニメーターのギャラが安いのは、その時期に手塚がテレビ局に提示した予算が、業界に定着してしまったせいだと非難されることもある(ただし最近はこの通説への反駁もある)。いずれにせよ、虫プロから多くの人材が輩出したのは事実である。

※26 湖川友謙
1950年生まれ。東京ムービー、タツノコプロを経て、77年からは東映系、日本サンライズ双方で活躍。『伝説巨神イデオン』、『聖戦士ダンバイン』などのキャラクターデザインで知られ、『ヤマト』シリーズでは、湖川滋の旧名で、映画『さらば宇宙戦艦ヤマト』の作画監督を務めた。

イラスト:とり・みき

PROFILE
麻上洋子 (あさがみ・ようこ)
北海道小樽市生まれ。生後7か月で神奈川県藤沢市に転居。声優を志し、黒沢良が主宰する声優学校に入学。声優としての修行を積む。1974年『宇宙戦艦ヤマト』の森雪役を射止める。以降、『銀河鉄道999』のガラスのクレア、『銀河鉄道物語』のレイラ・ディスティニー・シュラ、有紀カンナの二役、『シティハンター』の野上冴子役、『伝説巨神イデオン』のハルル・アジバ役などで活躍。「アニメの声優を目指して声優になった第1号」と言われる。93年、講談師・一龍斎貞水に入門。「一龍斎春水(はるみ)」と名乗り、05年に真打ち昇進する。

 

INTERVIEWER
とり・みき
1958年熊本県生まれ。79年、少年チャンピオンでデビュー。『るんるんカンパニー』『クルクルくりん』などのポップでシュールなギャグ漫画や、『愛のさかあがり』などのレポート風エッセイ漫画、『山の音』などのシリアスSF系漫画、シュールな9コマ漫画集『遠くへいきたい』(河出書房新社)など多彩な作品を発表している。外画(洋画)の吹替にも造詣が深く、『とり・みきの映画吹替王』(洋泉社)などの著作がある。

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